時計 デザインのストーリー第3回:タグ・ホイヤー アクアレーサー

8分

アンガス・デイヴィス Escapement Magazine 共同創設者

第3回 – ルーペ・タイム

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新しいアクアレーサーのダイヤルとケースには、多くの改良が施されている。ちょっとしたアップデートに過ぎないものもあれば、目立った変更もあるが、ガイがそれぞれの変更の理由を説明すると、どの変更も当然のことのように感じる。今回は、すでに説明したことに加えて、この時計の改良点をさらに見て行くことにしよう。

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ダイヤル

全3回シリーズのこの特集では、これまで、大成功を収めているモデルをアップデートする際には、「進化」 と「洗練」 がキーワードになることを紹介した。守りに入っている人であれば、「壊れてもいないのに、なぜ直すんだ」 と考えるのだろうが、前に言ったように、タグ・ホイヤーはそんな考え方をするようなブランドではない。ラ・ショー・ド・フォンでは、継続的改善が日常化している。

先ず、従来モデルで3時位置にあった日付表示が、新モデルでは6時位置に変わっている。その結果、ダイヤルが左右対称になったが、この特徴は、今後のタグ・ホイヤーの全てのモデルに引き継がれることになる。さらに、サファイアクリスタルの下側に刻まれた拡大レンズの下には、日付が傾斜して表示される。こうしたディテールは特に、あらゆる角度からの視認性を向上させる。サファイアクリスタルの外側には、気泡のような気になる突起物もないので、日付表示への注視が妨げられることもない。

タグ・ホイヤーのデザイン部門は、3時、9時、12時の各位置に配された台形のインデックスを見直した。先代モデルからのものを引き継ぎながらも、今回よりシンプルなデザインが採用されている。さらに、ファセットの数が増え、より多くの光をダイヤルに集めることができるようになっている。また、12角形ベゼルにインスパイアされ、1時、2時、4時、5時、7時、8時、10時、11時のインデックスも台形が8角形に変更された。それぞれのインデックスの先端辺はベゼルの軌跡に沿っている。日付表示のある6時位置では、小さな長方形のバトンが時間を表す。

今回のアクアレーサーでは時針のデザインも新しくなっている。形が変わっただけでなく、分針との見た目が大きく違うため、ダイバーの中で好評を博している特徴だ。ギはこう説明する。「従来モデルよりも落ち着いた見た目になった分、特に視認性が格段に向上しています。瞬時の読み取りやすさと精度は、ジャック・ホイヤーが決して妥協しなかった点であり、60年代に彼がブランドにもたらした2つの基本的な特性でした」 。

中央のスイープ秒針には、発光性のロリポップを採用しているが、これも視認性を高めるために位置を変更している。

これまでは、インナーベゼルのインデックス間にあるマーキングが長く、大きかった。このディテールを見直し、ミニッツトラックを一段高くなったインナーベゼルに移すことで、マーキングがアウターベゼルとぴったり一致し、ダイビング中に威力を発揮する。個人的には、新しいマーキングになってよりすっきりした感じがする。また、ミニッツトラックを載せたインナーベゼルがダイヤル本体面よりも一段高くなっているのも今回の変更点だ。

ダイヤルの字体も刷新され、よりシャープでクリーンな表情になっている。実際、ギ・ボーヴも次のように説明している。「ダイヤルをよりエレガントに見せるため、字体やマーキングを見直しました。例えば、これまでのモデルではブランド名の下にアクアレーサーの名前を配していましたが、今回の最新モデルは、タグ・ホイヤーのロゴの上にモデル名を入れています。このはっきりとした特徴もまた、今後全てのタグ・ホイヤーのモデルに採用されることになります」 。

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ケース

前にも紹介したように、今回、ケース対ベゼルの高さ比が変わっている。ウォッチヘッドがわずかに薄くなった一方、ブレスレットは実に3分の1の薄さになった。

新しいケースは、ホーンの上端に沿って“進化した面取り”が施され、より一層磨き上げられた表面が隣り合うサテン仕上げの表面と魅力的なコントラストを描いている。これにより、ウォッチの上面には何も手を加えることなく、デザイナーがウォッチ側面に創造性を遺憾なく発揮することができるようになった。リューズプロテクターも長くなり、以前よりもケースから突き出ている。このディテールはRef. 844にインスパイアされたものだが、新しいモデルでは以前より目立たなくなっている。

新モデルでは、従来のモデルに見られたアルミニウム製ベゼルに代わって、セラミック製のインレイが採用されている。Ref. 844にインスパイアされたローレット加工も今回、ベゼル側面を垂直に飾っている。ベゼルの回転は感触も良好で、心地よいクリック音がする。

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新しいアクアレーサーのこれ以外の特徴として、ホーンが短くなり、よりシャープに下向きになったことで、手首と時計との人間工学的な関係がさらに改善された点が挙げられる。リューズの側面にはポリッシュ仕上げが施され、センターステージでは12角形がブランドロゴを囲んでいる。

ケースバックには、全てに角度が付けられてデザインされた新しい表現のダイバーズヘルメットが飾られている。その周りを一面の六角形が取り囲み、ケースバックに驚くほどモダンな魅力をもたらしている。ねじ込み式ケースバック上のヘルメットはさらに12時と6時位置を結ぶ軸に沿ってぴったり中央に位置している。

最後に、新しいブレスレットは、スリムになっただけでなく、時計を装着したまま15mmまでの調整が可能なシステムも搭載されている。これは、ダイビング時に理想的であるだけでなく、手首が蒸れやすい夏の暑い日にも嬉しい機能だ。

その他のデザイン上の考慮点

時計をデザインする時、ギは、光との相互作用や、インスタグラムに取り付かれたこの世界でいかに簡単に写真に撮ってもらえるかを考えると言う。彼はコンピュータプログラムを用いて、ダイヤル、ベゼル、ケースの各面に光がどのように当たるかをシミュレーションし、光の当たり方に関わらず時計が常にハンサムに見えるようにしている。

人間工学も重要な考慮点だ。紙に描いたスケッチをCAD(コンピュータ支援設計) システムで再現し、ケースとブレスレットの構成を何度も練り直して、完璧に近い状態にまで絞り込んでいく。3Dプリンターで模型を制作し、様々な手首に装着してフィット感を評価する。実際、ケース、特にラグ、そしてブレスレットのデザインを何度も見直したからこそ、ガイのチームは比類のない装着感を実現することができたのだ。

論より証拠

「論より証拠」 とはよく言われることわざだ。私はここ数日、新しい「アクアレーサー プロフェッショナル300」 のサンプルを実際に着用してみて、その良さがよく分かってきた。視認性や装着感は申し分ないが、その素晴らしさはこうした機能面だけにとどまらない。

特に、ポリッシュ仕上げの表面とサテン仕上げの表面が織り成す相互作用は、隣接したそれぞれの面がしっかりと自己を主張している。6角形、8角形、12角形の形状を繰り返し組み合わせることで、面白味がありながらも、調和の取れた外観を実現している。セラミック製のベゼルインレイは、工場出荷時の美しい外観を末永く維持することを約束する。逆回転防止ベゼルを回転させると、安心感のあるクリック音が聞こえる。高級感のある感触だけでなく、思わず笑顔になるサウンドトラックも聞こえてくるのだ。こうして、高評価のリストは延々と続いていく…。

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最後に

品質と価格のバランスに優れていることが「アクアレーサー プロフェッショナル300」を特別な存在にしている。この価格帯で私が思い浮かべることのできる時計の中で、このアクアレーサーより見た目も使い勝手も優れた時計は見当たらない。このモデルの高い競争力の一因は、ブランドの優れた時計製造のノウハウとスケールメリットにあると考えられる。だが何よりも、このモデルの優れた点は、ブランドのデザインへの並外れたこだわりにあると言えるだろう。

アンガス・デイヴィス Escapement Magazine 共同創設者