時計 デザインのストーリー第1章:タグ・ホイヤー アクアレーサー

5分

アンガス・デイヴィス Escapement Magazine 共同創設者

第1章 – 継続的改善

タグ・ホイヤーの本社は、「スイス時計製造の首都」 とも言われるラ・ショー・ド・フォンにある。モダンな建物の1階にあるのがブランドのミュージアムだ。ここは、メゾンの数多くの歴史的なモデルだけでなく、時計にまつわる様々なアイテムが詰まった宝庫だ。

スイスのブランドであるタグ・ホイヤーが「1860年以来、タグ・ホイヤーは、アヴァンギャルドで高精度、そして大胆なスタイルを体現しています」 と言って、その豊かな伝統を誇るのも当然のことだ。創業者であるエドワード・ホイヤーは、革新的な人物だった。彼は1887年に振動ピニオンで特許を取得。この機構により、クロノグラフがムーブメントと驚くほど正確に噛み合うようになり、プッシュボタンを押すだけでストップウォッチ機能のスタート/ストップが可能となった。振動ピニオンは、時を経た今でも多くのクロノグラフに採用され続けている。

ミュージアム内に展示されている組み立てられた時計を追っていくと、160年以上前に制作されたモデルが数多くあることに感動を抑えきれなくなる。ここは、ウォッチコレクターの興奮を煽る宝の山であり、将来のモデルをデザインする際のインスピレーションの源になる可能性も秘めている。ただし、このブランドはかつてのモデルの複製を作ろうとしているのではなく、その名を冠した時計を革新し、改善していくことを信条にしている。

商業的に大成功を収めているモデルがいくつもあるにもかかわらず、タグ・ホイヤーは決してその栄光に甘んじることがない。それどころか、継続的改善という考え方を全身全霊で受け入れているのだ。

« 他のダイバーズウォッチと一線を画し続ける特徴であるRef. 844のアグレッシブでモダンなファセット入りのスタイルを維持しつつ、さらに魅力的なデザインを求めて取り組みました。 »

ギ・ボーヴ タグ・ホイヤー クリエイティブ・ディレクター

スイスのアヴァンギャルドなマニュファクチュールが、つい最近、「アクアレーサー」 のデザインを一新させた。一般的なウォッチメーカーであれば、特にこのモデルがブランドを代表する長年のベストセラーであることを考えると、そのままにしておきたいと思うのだろうが、それはタグ・ホイヤーというブランドのマインドセットに反する。実際、タグ・ホイヤーのパラダイムの中心にあるのは、自社製品をより良いものにしたいというひたむきな願望であり、この特徴は、ブランドのクリエイティブ・ディレクターを務めるギ・ボーヴと話していても明らかだ。

ギ率いるプロダクトデザイン部門のスタッフは、各コレクションを継続的に見直し、時計のすべての要素を詳細に検討して、改善できる点を探していく。

デザインには、モノの表面的な見た目だけにとどまらず、人間工学や触れた時の感触など、他の様々な要素が含まれる。デザイナーは、ターゲットオーディエンスとの関連性を維持しながらも、全体の高級感を高めるためのさまざまな方法を検討する。同時に、プロのデザイナーは常に新たに開発された素材や技術にも敏感である。簡単に言ってしまえば、デザインは専門家の分野であり、HBの鉛筆をどんなに巧みに使いこなしたとしても、たいていの素人の技能を超えたところにいるのだ。デザインはプロに任せるのが一番ということだ。

ギ・ボーヴとの対話

 

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私は何度もギに会っている。彼は話し方こそ静かで控えめだが、自分のプロとしての能力には相当な自信を持っている。それも当然のことだ。彼が話すと、全ての言葉が重要になり、価値を持つようになる。実際、それは彼がデザインに対してどのように向き合っているかを表している。彼は、曲線、直線、ファセット、テクスチャーそれぞれを評価しながら、時計を全体として見る。美学に対する十分に考え抜かれた理解に基づく分析的な目を持っていること明らかだ。

最近、ギと彼のチームは、現行モデルを進化させた新しい「アクアレーサー プロフェッショナル300」 の制作作業を終えた。ギは、この新しいモデルをデザインする際にたどり着いた決定事項のいくつかを詳しく説明してくれた。

「我々は、他のダイバーズウォッチと一線を画し続ける特徴であるRef. 844のアグレッシブでモダンなファセット入りのスタイルを維持しつつ、さらに魅力的なデザインを求めて取り組みました。例えば、12角形のベゼルはRef. 844の特徴の一つだったので残しました。ブレスレットの全体的なデザインも継承しています。しかし、ケースについては、ベゼルの高さとケースの高さとの比率を見直し、ブレスレットをスリムにして、ケースとの一体感を高めています」

「時計の側面を見ると、ラグの上端のエッジには面取りが施されているのが分かります。リューズプロテクターが目立っていたRef. 844(後述) にヒントを得て、リューズプロテクターを少し延ばしていますが、Ref. 844ほどではありません。ベゼルの側面には、これもRef. 844からヒントを得たローレット加工を施しています」

「この時計を見て気づくであろうことの一つは、12角形ベゼルなどの“エッジ”のアイデアが、他にも複数個所で使われているということです。例えば、リューズの縦方向の端も12角形です。ケース上部に沿ってはっきりと分かるようにベ面取りを施しているのは、Ref. 844からヒントを得ています」 。

この時点で、私のHBの鉛筆は疲れを見せ始めていた。ギと話す前は、「アクアレーサー」 の今回の最新の進化を単なる顔のシワ取りくらいに思っていたのだが、話し始めてから5分も経たないうちに、私がそれまで考えていたよりも、このデザインにはずっと多くの要素があることが分かってきた。

ギと102分も話した後、私は新作のニュアンスをもっと簡潔な方法で伝える必要があることを認識した。そこで次回は、この新モデルならではのさりげない変化を見ていきたいと思う。

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アンガス・デイヴィス Escapement Magazine 共同創設者