サヴォワールフェール 世界で最も有名な時計とは?

8分

単に技術的に優れた時計からハリウッドの歴史の象徴へと変化した極めて特別なホイヤー モナコ。その歩みをご紹介します。

スティーブ・マックイーン、ル・マン24時間レース、映画『栄光のル・マン』、1970年6月14日 ベルナール・カイエ撮影/Getty Images

1970年に映画『栄光のル・マン』が制作されていたとき、スティーブ・マックイーンは歴史に残る選択をしました。俳優として演技にこだわりのあったマックイーンは、本物であることを何よりも大切にすることで知られていました。彼は、スタントマンが自分の代わりにハンドルを握ることを拒否し、全て自分自身で運転することにしたのです。プロレーサーのマイケル・ディレイニーを演じるにあたって、マックイーンは当時最高のドライバーたちを研究しました。彼らの多くがジョー・シフェールが初めてトラックで着用したホイヤーのロゴが入ったユニフォームを着ていました。撮影中のマックイーンとはすぐに意気投合したそうです。

その結果、マックイーンは、彼の親友となったシフェールがトラックで着ていたのと同じホイヤー クロノグラフのロゴが入ったレーシングスーツを映画の衣装に選びました。「私はジョー・シフェールと同じ車を運転する。だから彼と同じレーシングスーツを着たい」とマックイーンは言っています。彼の役に最適な時計を選ぶように求められたときには、マックイーンは珍しいスクエアフェイスとブルーのダイヤルを備えたホイヤー モナコのアヴァンギャルドなデザインを迷うことなく選びました。 当時の数多くの有名時計メーカーが手掛けた時計を選ぶこともできましたが、マックイーンにとってはレーシングスーツのロゴと同じブランドというだけでなく、友人であるシフェールの「勝利へのこだわり」を称えるためにも、それはホイヤーの時計でなければならなかったのです。

1969年3月3日にジュネーブで発表されたホイヤー モナコは、世界初の防水機能を備えたスクエアフェイスの自動巻クロノグラフでした。傑出した物語を持つこの特別な時計は、モーターレーシングのスリリングな世界を想起させるだけでなく(特にモナコ グランプリ) 、専門技術の観点からも壁を打ち破るものでした。この革新的なタイムピースに搭載されたシグネチャーの自社製ムーブメント ホイヤー キャリバー11は、それ自体が革新的な発明品でした。

シンプルなホワイトのダイヤルを備えた丸型の時計という、当時の伝統的な時計製造のデザインから劇的に逸脱したモナコは、スクエアフェイスにメタリックブルーのダイヤル、レッドの秒針を備えた真にアヴァンギャルドなスタイルで登場しました。ガラスはドーム型になっており、時計全体が未来的な雰囲気を備えていました。また左側にリューズがあるのは、この時計に巻き上げを行う必要がなかったためです。ホイヤー モナコは発表と同時に大きな話題となり、「革新的な新技術」として広く知られるようになりました。当時、マックイーンが映画『栄光のル・マン』で演じる役が身に着ける時計としてモナコを選んだのも、不思議なことではありませんでした。

撮影の最終日。時速およそ200マイルでミュルザンヌストレート(ル・マンのコースで最も長いストレート) を走り抜けたマックイーンは、セットにポルシェ917Kを停車させました。手首にモナコを着けたマックイーンが車から降りてきた時、彼の妻と子供たちが駆け寄り、彼を祝いました。一方では、チーフメカニックのハイグ・アルトゥニアンは917のエンジンの手入れを始めていました。家族の祝福を受けたマックイーンは、アルトゥニアンに歩み寄り、時計を外してそれを彼に手渡しました。その時、マックイーンが「撮影中いつも私の命を守ってくれたことに感謝する」と伝えたエピソードは今でも語り継がれています。アルトゥニアンは驚き、自分には身に余るというしぐさでその贈り物を断ろうとしました。しかし、マックイーンは首を左右に振り、こう言いました。「もう遅いよ、だって君の名前を刻印しちゃったからね。」

2020年12月12日、フィリップスの時計部門は、1971年の伝説の映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンが着用した6つのホイヤー モナコの内の1つをオークションにかけます。

数年の間、ハイグ・アルトゥニアンは、「To Haig Le Mans 1970」という文字が刻まれたこのスティーブ・マックイーンのホイヤー モナコを身に着けていました。しかし、彼は間もなくこのような貴重な品は後世の人々のために保管した方が良いと考えるようになり、貸金庫に入れたまま半世紀近くそのままにしてきました。

時計に物語があるとしたら、それは親から子へ、友人から友人へと渡されるアイテムであるということでしょう。そこに時計が象徴する重要な意味があります。しかし、スティーブ・マックイーンにとっては、この極めて特別なホイヤー モナコは、技術的に時計製造の歴史における類いまれなアイテムであり、シフェールとの友情の証としてレーシングスピリットへの真の愛を物語る存在であり、驚くほどの気前の良さを発揮した結果であり、そして文化的な水準を作り出すものであったのです。この傑出した時計は次にどこへ行くのでしょう?誰の手首に着けられて旅をするのでしょうか?

おそらく、いつの時代にも変わりなく最も影響力の大きいホイヤー ウォッチでしょう。

2020年12月12日、フィリップスの時計部門は、1971年の伝説の映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンが着用した6つのホイヤー モナコの内の1つをオークションにかけます。