サヴォワールフェール タグ・ホイヤー-フォーミュラ1で時を巻き戻す

タグ・ホイヤー フォーミュラ1の進化を振り返る

8分

今回は、タグ・ホイヤーを代表するタイムピース「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」の進化を振り返ってみることにします。そこで、この特別な時計について、最初に時を刻んだ瞬間から今に至るまでを知るために、アーカイブを調べてみました。

「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」を、高級時計蒐集の世界に足を踏み入れるための入り口と考えてみて下さい。スポーティで明るい印象を与えるこの時計は、ブティックのウィンドウでもひときわ目立ち、高級時計のことをよく知らない人をも魅了し、未来のコレクターに育つ種を蒔いてくれるモデルです。なにしろ手頃な価格で、気持ち良く投資できるスイスの一流ブランドの製品なのですから。「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」の過去(そして現在) はとにかくカラフル。その進化を探るためにも時間を遡ることにしましょう。

背景と始まり

「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」は、1986年にデビューしましたが、それはTechniques d’Avant Gardeグループがホイヤーを買収し、最終的に社名が「タグ・ホイヤー」と生まれ変わった直後のことでした。Techniques d’Avant Garde(これでTAGの由来はお分かりですね) は、F1マシン用のセラミックターボチャージャーのような航空機やレースカーのハイテク部品のトップメーカーでした。その後何十年にもわたりブランドを決定づけることになる決断を下したタグ・ホイヤーは、フォーミュラ1や様々なモータースポーツとパートナーシップを組んだ時計によって、彼らとの関係性を育むことを選択したのです。

フォーミュラ1のインスピレーションの一つとして挙げられるのが、1970年代に発売された「ホイヤー イージーライダー」です。機械式ムーブメント、樹脂製のケース、鮮やかな色使いで、若い世代を惹きつけようとした手頃な価格のスポーティな時計でした。「イージーライダー」はビジネス的にはあまり注目を集めませんでしたが、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」はこの時計の直系になります。

80年代に発表された「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」は、単に政治や文化の面だけでなく、“クォーツショック”の直後に登場したという点でも、この時代の産物と言える時計です。1970年代のこの時期は、日本を中心としたクォーツ時計が市場にあふれ、機械式時計の技術が根こそぎ消滅してしまうかもしれない恐れがあったため、ある意味では時計製造史の暗黒の時代とも言えます。確かにこのクォーツショックは、業界の一部に壊滅的な被害を及ぼしましたが、その一方で、多くの時計メーカーを瀬戸際にまで追い込み、変革のための大きなきっかけとしても作用したのです。パワフルに登場したタグ・ホイヤー 信頼性の高い時刻表示のみのムーブメントを搭載したクオーツ時計で、大衆受けするデザイン(樹脂ケース、ラバーストラップ、カラフルなアクセント) が特徴の「フォーミュラ1」を発表したことで、タグ・ホイヤーは、昔ながらのアナログ時計だけでなく、先端技術にも精通したモダンなウォッチブランドであることを証明しました。

クロノグラフを発表

1988年から89年にかけて、機械式の層の下にクォーツムーブメントを搭載するという魅力的なムーブメント構造の、伝統的な3ダイヤル クロノグラフ「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」が発売されました。このモデルは製造が難しかったため、あまり長く市販されませんでしたが、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」が単なるエントリーレベル以上の時計だと言うことを世界に知らしめるには十分な期間市場に出回りました。

1990年には、クォーツムーブメントを拡充し、型破りな2-6-10レイアウトと2つのサブダイヤルという改良型クロノグラフモデルが発表されました。

 

小休止後、再始動

2000年から2004年まで姿を消していた「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」ですが、見慣れたデザインながら、さらに洗練されたスタイルで復活します。アラームなどの特殊な機能や特徴を追加し、2007年にはレディースバージョンも開発されます。 2015年には、C型ケースを採用した「タグ・ホイヤー オータヴィア」のスタイルも発売され、ハイエンド路線をさらに確固なものにしました。

 

TAG Heuer Formula 1 Red Bull Racing Special Edition (CAZ101AK.BA0842)

リミテッドエディションのコラボレーション

時を経ていく中で、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」は、遊び心と実験のための優れたキャンバスとなります。これまでに展開された限定エディションのコラボについて振り返ってみましょう。例えば、2018年には「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ マックス・フェルスタッペン スペシャル エディション」が発表されました。1,300本限定の、フェルスタッペン自身がデザインしたこの時計は、フェルスタッペンのレーシングナンバー(#33) と、モータースポーツの世界に敬意を表した印象的なレッドとブラックのカラースキームが特徴です。ダイヤルの右側には、オランダの国旗をモチーフにしたデザインが施されています。

また、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 レッドブル・レーシング スペシャルエディション」も、数量限定で今も販売されています。アストンマーティン・レッドブル・レーシングのマシンRB16Bのカラー(ミッドナイトブルー) にインスパイアされたコラボレーションウォッチには、チームカラーのレッドとイエローがアクセントに配されています。

もう一つの注目すべきコラボレーションが、2020年に発表された「タグ・ホイヤー × フラグメントデザイン キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ」です。日本が誇るストリートウェアの教祖的存在である藤原ヒロシ氏がデザインし、リミテッドエディションとして発売されたこの時計は、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」のビジョンを究極の大胆さで表現し、ヴィンテージ風のスポーツウォッチを今の時代に見合うようデザインし直しています。藤原氏はさらに、ブレスレットのリンク、レッドサファイアのケースバック、回転式ベゼル、キャリバー02ムーブメントも追加しています。これは、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」が、ストリートカルチャーやファッションに敏感な若い世代と融合した、全く新しいワンランク上の時計と位置付けられています。

カラーの変遷

史上初の「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」は、ブラック、イエロー、グリーン、グレーなど、印象的で個性的な6色のカラーバリエーションで発売されました。カラーステンレススティールとグラスファイバーのケースには、数種類のカラーコンビネーションが用意され、頑強な構造ながら遊び心のあるアプローチの時計に仕上がっています。パステルカラーのセットは、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」レディースウォッチのシリーズで、小ぶりのケースと薄いストラップとともに採用されました。

「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」のシグネチャーカラーがオレンジであることは言うまでもありません。ダイバーズウォッチ「1000シリーズ」ですでにタグ・ホイヤーのカラーパレットに含まれるようになっていたオレンジは、ダイビングの際のアクセントカラーとして人気でした。陸上でも目立つ色なので、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」では1980年から使用されています。

 

2021年初頭に発表された最新の「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」は、全面がオレンジのダイヤルを採用し(80年代と90年代のモデルへのトリビュートとして) 、このリミテッドエディションは現在も販売されています。

モータースポーツとの縁で言えば、オレンジは、マルボロの有名なレッドに取って代わられるまで、マクラーレンF1チームのオリジナルカラーでした。また、F1ドライバーのマックス・フェルスタッペンのナショナルカラーともたまたま一致しています。(彼はオランダ出身のドライバーです。)

ブルーもまた、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」に自然に溶け込んでいます。ネイビーブルーから明るめのブルーまで、ブルー系がベゼルやスチール製ケースとの絶妙なコントラストを演出しています。ブルーが初めて登場したのは、特徴的なイエロー、レッド、グリーンと同時期です。

TAG Heuer Formula 1 (WAZ101A.FC8305)

大胆なキャンペーン

タグ・ホイヤーは長年にわたり、主要なモータースポーツイベントやドライバーとのパートナーシップを育み、遊び心いっぱいの華やかなキャンペーンを頻繁に展開してきました。

タグ・ホイヤーは、80年代後半に「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」ウォッチを紹介するための最初のポスターを制作し、街を赤々と染め上げました。そのキャンペーンは明るく、マルボロレッドをまとったF1レーサーの万華鏡のようなイメージと、「ホイヤー フォーミュラ1。高速走行中に衝撃を受けても、擦っても故障しないことを保証。」という野心的な約束を掲げていました。

2000年代の「あなたは何でできている」キャンペーンでは、キミ・ライコネン、ファン・パブロ・モントーヤ、デビッド・クルサード、ミカ・ハッキネン、フェルナンド・アロンソ、ルイス・ハミルトンといった世界的に有名なマクラーレンのF1ドライバーが起用されました。「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」のキャンペーンは、開始当初から、現在そして未来のユーザーの鼓動に合わせて、その時々に合ったものが実施されてきました。「フォーミュラ1」は、卒業や就職の際の贈り物として、大人の仲間入りを祝うアイコニックな時計です。豊富なカラーバリエーションとプレイフルなデザインで、今や若い世代にも人気のシリーズとなっています。「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」は、身に着ける人にこの時計の個性を押し付けるのではなく、その人が自分の個性をより魅力的なものとすることを可能にするタイムピースです。