ストーリー アート オブ エンジニアリングとエンジニアリング オブ アートの出会い

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ソフィア・サラザールの「タグ・ホイヤー モナコ」についての2つの見解

ソフィア・サラザールは、アルゼンチン出身で、現在はバルセロナを拠点に活動しているアーティストです。今回私たちは、彼女が最近、タグ・ホイヤーのために制作したアート作品について話を伺いました。彼女は、異なる媒体を使った2つの作品を通して、タグ・ホイヤーの人気ウォッチ「タグ・ホイヤー モナコ」を解釈していますが、いずれの作品も、このアイコニックなタイムピースの芸術性を、彼女ならではの表現豊かな美しさで引き立てるものとなっています。私たちが彼女の作品をとても気に入ったこともあり、作品制作の舞台裏や彼女の「タグ・ホイヤー モナコ」に対する見方などについて語ってもらいました。どうぞお楽しみください。タグ・ホイヤーのファンなら誰でも、やはりスタイルには相当のこだわりがあります。

サラザールは、テキスタイルデザインのバックグラウンドを持つ、”モノづくり一家” の出身です。そのためか、彼女の作品には、アートとデザインの世界を軽やかに行き来する、親密なクラフトマンシップが感じられ、その姿は、まるで、名人と呼ばれる時計職人のようです。彼女は、自分が惹かれるいくつもの手法や媒体についてできるだけ多くことを学びながら、常に様々な技法を探り、試してきました。最近では、サイアノタイプ(青写真) からリノカット、木版画、スクリーンプリントなど、版画に関わるあらゆるものにその好奇心が広がっています。1年ほど前から、彼女は、紙に形を刷り込んでいくエンボッシング(エンボス加工) の手法を探り始めていました。

タグ・ホイヤーからの依頼を受けた作品の制作で、サラザールは木版画とエンボッシングという2つの全く異なる印刷媒体を選びました。この2つの方法では、最終的な結果は大きく異なるものの、いずれもミスのない完成品を生み出すために、事前に緻密な計画を立て、デザインには細心の注意を払い、何度も試作を繰り返すことが求められます。それではこれから、こうした手法のそれぞれを詳しく見ていきながら、タグ・ホイヤー モナコを解釈する際にサラザールがどのような芸術的な判断を下したのかについて探っていくことにしましょう。

先ず、サラザールは、1作目の木版画の 縮小印刷がどのようなものであるかを説明してくれましたが、それは、縮小とはむしろ逆に、膨大な事前準備を必要とする、骨の折れる作業でした。木版画は、作業段階が多く、しかもその中でミスをしたらもう取り返しがつかない、気の弱い人には向かないリスクの高い芸術です。

例えば、一枚の木の板から一層ずつ削り出してできた跡は、時間を戻して別のものに置き換えることはできません。彫ったそれぞれの層が1色の顔料に対応し、タブとピンを使って慎重に木版から紙に転写され、各層の色が前の層のプリントと完全に一致していることを確実なものとしなければなりません。

つまり、この作業は、道具を使うずっと前から、ロジスティクス エンジニアリングを駆使して、前後左右をイメージしながら厳密な行動計画を立てる必要があるのです。結果を確認し、最終的な作品の結果を確実なものとするために、サンプルを作って、色々試してから初めて実際にやってみることになります。でも、この手間暇のかかる複雑な工程が面白い結果を生むのです。最初の色の層が刻まれると、二度と繰り返すことのできない究極のリミテッド エディションプリントとなるのですから。サラザールは、このようなやり方も極めて特別なものだと言います。「始めて、終わって、それでおしまい。もう後には戻れません」

タグ・ホイヤーから依頼されたサラザールの2作目は、1作目とは対照的に「タグ・ホイヤー モナコ」を捉えています。彼女は、この作品にエンボッシングを選び、この媒体がもたらすシャープさ、正確さ、端正さ、繊細なコントラストによって、デザインの細部にまで作り込まれた職人技をより身近に探っています。ここでは、サラザールがこのウォッチのデザインとある種の調和を見出した物体の静物画の中で、ディテールに繊細な注意を払いながら観察した「タグ・ホイヤー モナコ」が主役となっています。このウォッチのどういったところに惹きつけられたかと尋ねると、彼女は「タグ・ホイヤー モナコは、本当にまるで芸術品のオブジェのような時計です。絶妙なバランス、アイコニックなデザイン、汎用性の高さなど、まさにクラシック。そして、コンテンポラリーでありながら、タイムレスでもあります」と答えてくれました。

エンボッシングの作業は、まず原版と呼ばれるものを作ることから始まります。これは、湿った紙にプレス機を使って刷り込み、凹凸がつくり出される立体的な土台です。サラザールは、厚紙、紙、木、布、糸などを細かく切断し、統一された作品を作り出すよう重ね合わせることで、このプリントの原版を製作しました。しかし、切断をする前に彼女は綿密な計画を立てなければなりませんでした。実際、ようやくプリントができるようになるまでには、原版のデザインとエンジニアリングに約3週間を費やしたと言います。木版画同様、3層で構成されたボリュームが最終的な作品では反転して見えるよう、この作品も逆算で考えられました。

木版画のより広範で色鮮やかなスタイルとは対照的に、サラザールのエンボス プリントは、全てがボリューム、光、影だけで表現され、「タグ・ホイヤー モナコ」のデザインの細部までを繊細に浮かび上がらせています。彼女は、作品の主役であるウォッチそのものに注目を向けさせるという、この媒体のミニマリズムに魅力を感じていると話してくれました。難しかったのは「タグ・ホイヤー モナコ」の芸術性を、ラインやインデックスだけでなく、立体的な造形で可能な限り詳細にわたって表現することだったそうです。

では、この2つの精緻な作品の制作は彼女にとってどのようなものだったのでしょうか?「チャレンジング! でもとても楽しかったです。緻密に考え、綿密に計画されたものでなければ、何も起きません。全てが試行錯誤で、何がうまくいくのかを、サンプルをもとに検証しました。私はこの時計を2つの異なる側面から見てみたいと思いました。1つは、人物を中心に据えたもので、その中で時計が独特なムードや雰囲気を醸し出しながら、その人の特徴の一部となる、という見方です。時計は二の次です。そしてもう1つの見方が、デザインを詳細に検討した上で、時計が最初に来る中心的な存在にしたい、というものでした」 その結果が、タグ・ホイヤー モナコを描いたイマジネーション豊かな2作となりました。私たち同様、このインタビューと共に、その作品をお楽しみください。