ストーリー タイムキーパーズ:ヒュー・ブラッシャー 、ロンドン・マラソンのイベントディレクター

舞台裏を支える人物と一緒にロンドン・マラソンを疾走

10分

このインタビューシリーズでは、時間というものが極めて重要な役割を果たす立場に立つ、様々な分野のタイムキーパー方が登場します。ゲストは、タグ・ホイヤーの公式アンバサダーに留まらず、実際の生活の中でミリ秒の違いがいかに重要であるかを示す代表的な方々です。シェフからパイロット、外科医やDJまで、テーマに関して実に魅力的なトークが展開されます。私たちが知っている時間というものを、トップクラスの人たちがどのように守り、曲げ、旅しているかをお楽しみ下さい。

ヒュー・ブラッシャー、ロンドン・マラソン イベントディレクター

今回の「タイムキーパーズ」では、2013年からロンドン・マラソンのイベントディレクターを務めるヒュー・ブラッシャー氏を迎え、ロンドン・マラソンの運営(とランナーの走り) についての内情を伺いました。優れたアスリートであり、それに匹敵する素晴らし体内時計をその身に備えるブラッシャー氏は、大都会でのマラソン大会を運営する上での一部始終について熱弁をふるってくれました。2016年以来ロンドン・マラソンの公式計時パートナーを務めているタグ・ホイヤーがお届けする、タイムリーな話題の独占インタビューをお楽しみ下さい。

ブラッシャーさん、あなたは1981年の第1回から、1回を除いて、全てのロンドン・マラソンに関わっていらっしゃいますが、かなり長い付き合いですよね(笑) 。時が経つ中で、ロンドン・マラソンがどのように成長し、変化してきたかを教えて下さい。 

とてつもなく大きくなりました。1981年には完走者が6,300人でしたが、今年は実際にロンドンの街中を走る選手だけでなく、バーチャルで走る参加者も含めると、登録ランナーは実に10万人にもなります。まさに世界で最も人気の高いマラソン大会です。

1981年のスタート時は、ランナーの96%が男性でした。彼らが走っていたスピードは、平均で、今よりもかなり速かったです。それが現在では、信じられないような挑戦をしたり、それぞれの理由で走ったりしている、日常的な人間性に満ちあふれた大会になっています。それに75万人もの人たちが走りをずっと応援してくれるのですから、人生で行うことの中でも最も前向きに捉えられる体験の一つだと思います。Tシャツに自分の名前を書き入れれば、一歩一歩を皆が応援してくれるポジティブな波に乗って走ることができます。

エリート女子レースでグリニッジを先頭で通過するビビアン・チェルイヨット選手(ケニア) とメアリー・ケイタニー選手(ケニア) 。Virgin Money ロンドン・マラソン、2019年4月28日。

カナリー・ワーフを通過するランナーたち。Virgin Money ロンドン・マラソン、2019年4月28日。

ロンドン・マラソンを「ポジティブな道しるべにしたい」と考えていらっしゃる点について、もう少しお話し頂けますか。また、なぜそれが今の時代における重要な考え方であると感じていらっしゃるのでしょうか。 

このマラソン大会には感動があふれ、前向きな気持ちが満ちています。ゴールすると感動のあまり泣き出すランナーが何人もいますし、コース上で友人や家族を見かけて涙ぐむ人も数えきれません。特に今、人と距離を置いて暮らさなければならない世界に私たちはいるわけで、そうなると人と人とのつながりやコミュニティを想う気持ちが極めて特別なものになってきます。だからこそ、ロンドン・マラソンにこれだけ多くの人が参加することになったのだと思います。1981年の大会と比べると、そこが大きな変化です。

ザ・マルでレースを終えたランナーたち。Virgin Money ロンドン・マラソン、2019年4月28日。

あなたはロンドン・マラソンを「世界最高のマラソン」と呼んでいますが、何がロンドン・マラソンをそんなに特別なものにしているのでしょうか。 

ロンドン・マラソンは、アボット・ワールド・マラソン・メジャーの6つのレースのうちの1つですが、どのレースもそれぞれに素晴らしく、個性があります。ロンドン・マラソンの特徴は、私の父と共同でこの大会を立ち上げたジョン・ディスリー氏が設計したコースです。ロンドンという街が大きく変貌を遂げてきたにもかかわらず、そのコースには初回から基本的に変更がありません。

イギリス全体がこの大会を応援し、サポートしてくれています。私たちはこの大会を心から愛しているんです。私は、このロンドン・マラソンをイギリス最大のストリートパーティーだと言っています。そのストリートパーティーが行われている間に、5万人もの人たちが42.195キロのフルマラソンを走るわけです。

世界トップクラスのエリートアスリートも参加しますよね。ええ、ロンドン・マラソンで優勝することは、オリンピックのマラソンで金メダルを獲得することよりも難しいと言われています。

2018年4月22日に開催された Virgin Money ロンドン・マラソンで、ロンドン・アイを通過するランナーたちの全景。

2005年だけはロンドン・マラソンに関わらなかったわけですが、ロンドンからケープタウンまでバイクでツーリングしていたという話は本当ですか? 凄い距離ですよね(笑) 。なんでまた、そんなにも壮大な冒険をする気になられたのですか? 

2003年に60日間世界一周のバイク旅行をしました。世界を見聞するのに素晴らしい方法だと思ったからです。時間は決して無駄にはできません。私はいつも仕事で忙しかったのですが、2005年にある程度時間ができたので、9人の友人と一緒にケープタウンに向かいました。まるで魔法にかけられたかのような体験でした。私はバイクが大好きです。世界を見て回るには申し分のない方法です。驚くほど素早く世界を見ることができますからね。

あなたはバイクのチャンピオンでもあるんですよね。 

ええ、耐久レースをやっていて、何回か優勝しています。チームで闘うレースなので、その点、私は最高のチームメイトに恵まれています。それこそ、つまり、素晴らしい人たちに囲まれることこそが人生に必要なことです。私はチームのライダーの中では圧倒的に下手くそです。だからこそ驚くべきスポーツなんですよ。常に変わることなく、まるでメトロノームのようでなければなりません。ブレーキングポイント、ターニングポイント、交代となる絶頂点とか以外は考える必要がない、自分たちの走りを邪魔するものは何もない、という世界は気分がいいです。

少し話を前に戻しましょう。あなたのお父上は、伝説の陸上選手ロジャー・バニスター卿が世界で初めて1マイル4分を切る記録を打ち立てたときにペースメーカーを務められた方で、ロンドン・マラソンの共同創設者の一人でもあります。ですから、走る家系であることはあまりにも明らかです。その点をお話頂けますか。あなたが初めて走ったのはいつのことですか。 

あなたは、私の母が全仏オープンテニスのチャンピオンだったことには触れてくれませんでしたね(笑) 。父はオリンピックの金メダリストで、おっしゃるように、ロジャー・バニスター卿がイフリー・ロードで1マイル4分の壁を破ったとき、彼のペースメーカーを務めました。スポーツは間違いなく、私が育った環境に内在するものでしたね。実は、私は最初、テニスプレーヤーだったんです。走るようになったのは18歳になってからでした。幼い頃から、自分ができる限りのベストを尽くすことを教え込まれてきました。それには、偉大なコーチや素晴らしい人々に囲まれることが何より大切です。コーチは私に誰かが自分より優れていることは、自分にはコントロールできないということを教えてくれました。でも、自分がどれだけ素晴らしい能力を発揮できるかどうかは、自分でコントロールできます。ですから、学ぶことが栄養学であろうと、スポーツ生理学であろうと、コーチを初めとして素晴らしい人たちに囲まれるようにするのです。仕事でも、スポーツでもそうするようにすれば、必ず報われます。

では、スポーツやトレーニング全般ではどのようなプランを立てているのですか。 

今はかなりリラックスしたペースですね。サイクリングやランニングで健康を維持しています。運動によってフィジカルの面でも、メンタルの面でもより健康になれることが知られるようになってきました。2017年のロンドン・マラソンは、メンタルヘルス・マラソンとなり、ケンブリッジ公爵夫妻とヘンリー王子が「Heads Together」というキャンペーンに協力して下さいました。このマラソンがキャンペーンのフィナーレを飾るイベントとなったのです。これがきっかけで、メンタルヘルスの重要性を社会が話題にするようになりました。

マイル22のバクストンの給水所でランナーたちに水を渡すケンブリッジ公爵夫妻とヘンリー王子。Virgin Money ロンドン・マラソン、2017年4月23日。

サイクリングやランニングをしているとき、時間をどのように感じていますか? 心の中では何が起こっているのでしょうか? 

私は時間の感覚がかなり優れていると思います。本格的なトレーニングをしていた頃は、ランナーとして週に100キロ以上走っていました。トラックを走っているときも、私はペースがきちんと決められることで有名でした。

でも、スポーツにものすごく集中しているときは、全てをブロックすることができます。そうなると、まさに時間が消えてしまうのです。競技テニスをしていたとき、試合中に頭上を通過する飛行機の音が聞こえてくると、ああ、自分は集中していないな、と分かりましたから。その反対に、時間が完全になくなって、その場にいるのが自分だけになることもあります。その瞬間が1秒のときもあれば、2時間続くこともあります。マラソンを走るときには、自分を解き放つんです。心を自由にさまよわせるのです。走っている間中集中し続けると、正直、かなりきついですよ。

それでは、ロンドン・マラソンの企画・運営の話に戻りましょう。世界で最も活気のある首都の一つで、全市規模のマラソン大会を開催する際には、どのような課題があり、また、どのように準備されるのでしょうか。特にWith コロナ・After コロナを見据えたこの時期に… 

こうした大会は、短期間の準備で開催できるように思われがちですが、私たちは何年も前から考え、計画しています。ロンドン・マラソンには、信じられないほど細部にまでこだわる素晴らしいチームが存在し、まさに驚異的な体験を提供しています。

でもそれは、コロナ禍になる前の、通常の年の話です。今や非常に不確実で、先の読めない時代に突入しています。でも10月をとても楽しみにしていて、さまざまなシナリオを計画し、試しています。計画し、テストし、そして実行しなければなりません。こうした大会は年に一度しかないので、上手くやるチャンスは一度しかないのです。

ランナーたちが渡るタワーブリッジの風景。Virgin Money ロンドン・マラソン、2019年4月28日。

2020年に立ち上げた「バーチャル・ロンドン・マラソン」のコンセプトについて教えて下さい。どのような全体的なビジョンがあって、どういった結果が得られたのでしょうか? 

昨年、8週間前の予告で立ち上げたのですが、信じられないような結果になりました。完走者の数は37,966人に上り、ギネス世界記録を達成したからです。今年は、グリニッジからウェストミンスターまでを走る5万人のランナーと一緒に、それをバーチャルで体験しようとしている人が5万人もいます。

これによってマラソン大会がますますインクルーシブなものになっています。普通、都会での大会では、大会終了後に交通規制を解除したり、コースだった道路の掃除をしたりと、多大な負荷がかかります。でも、人々がどこででも走れるようになれば、道路を閉鎖する必要もなくなります。また、走るのにもっと時間が必要な人を励ましたり、より多くの人にアクティブになってもらうこともできます。人々に身体を動かそうとやる気を出してもらうようにすることが、私たちの基本的なビジョンです。何歳であろうと、どんな人であろうと、才能のいかんにかかわらず、誰にでも走ることを楽しんでもらいたいのです。それが私たちの原動力であり、私たちが情熱を持って取り組んでいることです。

マラソンの所要時間にも触れられていますが、もちろんレースでは、タイムとその計時が欠かせません。このような大規模なビッグレースをどのように計画し、管理しているのかを教えて下さい。 

おそらく85 – 90%の人は目標とするタイムがあると思いますので、それを正確に把握することが重要です。それが大会運営の基本です。また、エリートアスリートの部門では、先導車両の時計が非常に重要になります。最後の1キロのタイム、予想タイム、経過時間などが記録されます。問題を軽減するために、タイミングポイントに有線または5G/4Gのネットワークに接続する主要なインフラを設置します。私たちが使用するテクノロジーが、計時の正確さを保証し、誰もがそれを理解できるようにしてくれます。タイムとマラソンを走ることとは密接に関係していて、一般にはあまり知られていませんが、私たちの仕事の中ではとても複雑で不可欠な要素です。

エリート女子レース発表会でのメアリー・ケイタニー選手(ケニア) 。Virgin Money ロンドン・マラソン、2017年4月23日。

まさにおっしゃるとおりですね。ご自身のトレーニングの計画や日々の生活の中で、計時や時間管理で頼りにしているツールやデバイス、プログラムはありますか? 

最近の多くの人たちと同じように、私も距離や時間を計測したり、コミュニティの要素を持ったりしているアプリ*を使っています。挑戦と競争は、私が育ってきた環境そのものであり、私の日常生活の一部です。冷静沈着に走るためにも、メンタルヘルスの面でも、目標を設定することは重要ですが、同時に柔軟性も必要だと思います。

 

[*編集者注:タグ・ホイヤー コネクテッドと一緒に使用することで、このアプリは、タイムを追跡したり、記録を打ち立てたりするのに役立つ最適なツールとなります。]

史上最大のロンドン・マラソンと言われる今年の大会について、最も楽しみにされていることは何ですか? 

離れ離れになった世界で、私たちが一緒になれること、コミュニティの中で一体になれることにワクワクしています。今回は素晴らしい大会になるでしょうし、これまでのロンドン・マラソンの中でも、おそらく最も感動的なものになると思います。その感動を人々に届けることが、今年の10月3日に私たちが情熱を持って行うことなのです。

ブラックヒースのスタートラインから走り出すエリート女子レース。Virgin Money ロンドン・マラソン、2019年4月28日。

あなたにとって、ロンドン・マラソンの中で最も感動したこと、印象に残ったことは何ですか? 

色々なものがありますね。個人的には、おそらく2003年でしょう。悲しいことに、その6週間前に父が亡くなり、ロンドン・マラソンを走らなければならないと決意しました。スタートラインでは、30秒間の拍手が続きました。また、スティーブ・ジョーンズというウェールズの偉大なアスリートがいて、最初の10kmを一緒に走ってくれました。さらにこの日、ポーラ・ラドクリフ選手が19年間続いた世界記録を更新し、英国の女子陸上界が一晩にして一変してしまいました。

個人的にはこの2つの出来事からこの年の大会が忘れられないものになりましたが、他にも実に色々なことがありました。いつも人間性が最高の形で表現される大会だと思います。

大切な思い出を教えて頂き、ありがとうございます。最後に、初めてマラソンに挑戦する方へのアドバイスをお願いします。 

リラックスして、笑顔で。最初の2、3キロは、混んでいることも、ペースが遅いことも、タイムが遅れていることも気にせず、ただ楽しんで下さい。慌てずにスタートすれば、ゴールでは良い結果が待っています。お約束しますよ。Tシャツには自分の名前を書き入れます。朝食で食べるものやランニングシューズを変えるなど、初めてだからと言って、新しいことはしないで下さい。そして笑顔で走る。そうすれば素晴らしい体験ができます。

タグ・ホイヤーは、2016年からロンドン・マラソンの公式計時パートナーを務めています。 

ロンドン・マラソン(またはその他のスポーツ大会) に向けてトレーニングをしたり、タイムを測ったりする方法を模索しているなら、「タグ・ホイヤー コネクテッド」こそがベストパートナー。次々に記録を更新していくことが可能になりますよ。