時計 It’s Panda time!

8分

アンガス・デイヴィス Escapement Magazine.com 共同創設者

"パンダ"ダイヤル、視認性は決して衰えない。

時計に夢中になっている多くの愛好家同様、私もHBの鉛筆を握って、自分が考える時計のアイデアをスケッチしようとしたことがある。だが、時計をデザインするなど、プロに任せる仕事だと悟るのに数分とかからなかった。

時計の仕事を専門にしているプロのデザイナーたちに会ったことがあるが、彼らが凡人とは違う考え方をしていることは明らかで、素人目にはほとんど気づかないような細かいディテールにまでとことんこだわるのである。直線、曲線、プロポーション、素材、仕上げ、色、質感といったものが、こうした今の時代のアーティストたちがアートを表現する際に駆使する媒体なのだ。カチカチと時を刻む作品には、見事に描かれた風景画や堂々とした彫刻にも劣らない価値がある。事実、こうした作品はいずれも天賦の才能の産物であり、それはアートスクールで培われ、その後何年もかけて磨き上げられていったものであることがほとんどだ。

Ref. 2447 - インスピレーションに満ちたデザイン

このことが頭の中にあったので、ジャック・ホイヤーの自伝『The Times of My Life』を読んで、彼が1963年に初のホイヤー カレラ クロノグラフのデザインを担当したことを知り、ちょっと驚いた。ジャックは、モダンなデザイン、特に建築と家具に興味を持ってはいたが、何よりもまず彼はビジネスマンだったからだ。にもかかわらず、前述の私のスケッチとは異なり、後にRef. 2447で知られるようになった彼のビジョンは、史上最も美しく象徴的なクロノグラフのひとつとして広く認められている。

プロのデザイナーではなかったにもかかわらず、ジャックはクロノグラフに「クリアでクリーンなデザインのダイヤル」を与えることの賢明さを認識していた。当時、時計のダイヤルは透明なアクリルガラスを風防とし、その内側にステンレススティール製のテンションリングを入れ、ケース内側に押し付けるようにして固定するのが普通だった。テンションリングを追加することで防水性も向上した。だがジャックのアイデアは、通常ディスプレイを縁取るように配されているトラックの位置を変え、それをテンションリングに移動させることで、貴重なダイヤルスペースを確保し、時間の読み取りやすさを向上させるというものだった。今にして思えば、単純なアイデアに思えるが、それでも最も単純なアイデアこそが最善であることが多い。

以来年を重ねていく中で、タグ・ホイヤー カレラには、カウンターが1つのものもあれば、2つまたは3つのものもあったりと、様々なバリエーションが登場してきたが、どのモデルも欠点のない色艶の良い外見に恵まれてきた。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ Ref. CBS2216.BA0041

新作 Ref. CBS2216.BA0041

今週、Watches and Wonders 2024で、タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフの最新作が発表された。シールドロゴが輝くダイヤルは紛れもなく新しく、斬新でモダンなデザインでありながら、その中にレトロなディテールが散りばめられている。1960年代後半に発表されたRef. 7753 SNにインスパイアされたこの新作 Ref. CBS2216.BA0041 (タグ・ホイヤーのファンたちはこのブランドの時計をリファレンス番号で呼ぶのが好きだ) は、特徴的な “パンダ ルック” で人気の高いヴィンテージ クロノグラフへのオマージュを捧げるものとなっている。この “パンダ ルック” なる言葉は、熱烈なホイヤーファンにはお馴染みだが、このモデルのようなシルバーカラーのダイヤルに配されたブラックのカウンターがパンダの目のように見えることを表す造語だ。ただし、新作タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ “グラスボックス” (39mm) のケースは、つぶらな瞳や愛らしい表情以上の魅力を湛えている。詳しく紹介しよう。

まるで似た者家族

昨年のWatches and Wonders 2023で、このスイスのアヴァンギャルドなブランドは 「グラスボックス」ケースを備えたタグ・ホイヤー カレラ クロノグラフを発表した。39mmのステンレススティール製ケースに収められ、キャリバー ホイヤー02 (Ref. TH20-00) を搭載したこのモデルは、それまでのカレラとはかなり異なる外観を呈していた。当初、タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ “グラスボックス”モデルは、ブルー (Ref. CBS2212.FC6535) とブラック (Ref. CBS2210.FC6534) の2つのダイヤルバリエーションで展開されていた。それぞれカラーコーディネートされたレザーストラップが付いた両タイプは、今もブランドのプロダクトポートフォリオに名を連ねている。

こうした2023年モデルでは、ダイヤルが存在感のあるドーム型のサファイアクリスタルの下に配置されているのが最大の特徴だ。「グラスボックス」 と名付けられた往年の風防は、ダイヤル全体をカバーすることで光を取り込み、視認性を高めている。タグ・ホイヤーのデザイナーたちは、タキメータースケールを湾曲したフランジの端、ちょうどケースに向かって傾斜している部分に配置するというアイデアを思いついた。「グラスボックス」サファイアクリスタルを採用することで、デザインチームは貴重なダイヤルスペースを確保することに成功したのだ。彼らはどこからこのアイデアを得たのだろうか?

新しいタグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ “グラスボックス” (39mm) は、2023年に発表された同モデルと多くの共通点があるものの、新しい色と仕上げ、特に “パンダ” ダイヤルを巧みに活かすことで、その外観は昨年のものとは大きく異なっている。

スーパールミノバ® が光るドット型のマーキングに隣接するファセット加工インデックス同様、この夜光塗料を塗布したバトン型の時分針が再び登場している。だが、この新しいダイヤルが纏っているのは、2023年モデルで採用されたサーキュラーサテン仕上げではなく、サンレイモチーフだ。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ Ref. CBS2216.BA0041

3時位置と9時位置に配置された2つのブラックカウンターが、それぞれ分と時間の経過を計測する。アジュラージュ仕上げ、明瞭なマーキング、鮮やかなレッドの針を特徴とするこのカウンターに曖昧なところはみじんもない。バイコンパックスダイヤルの6時位置にはスモールセコンドも配されている。機能に日付表示も組み込んだこのスモールセコンドは、静かで控えめな印象。このスモールセコンドは、ブラックカウンターの引き立て役といったところだが、それでも視認性は極めて高い。

中央のクロノグラフ秒針の先端は、ミニッツトラックでも使われている、鮮やかなレッドで彩られている。まさに、うまみのあるニュアンス感漂うディテールを組み込むことで、視認性を損なうことなくスタイリッシュに仕上がった機能性豊かなダイヤルだ。

今回、サファイアの縁に隣接して配置された前述のタキメータースケールが、明瞭な数字とともにステルスカラーのブラックで配されている。ここでもまた、読み取りやすさを向上させるために全てが最適化されているのだ。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ Ref. CBS2216.BA0041

ブレスレットも登場

ダイヤルの先には、39mmのステンレススティール製ケースがあるが、そこではサテン仕上げとポリッシュ仕上げが共存する。それぞれの仕上げが互いに区別され、完璧に輪郭取りされているようにするには、高いノウハウが求められる。また、他の「タグ・ホイヤー カレラ」のいくつかのモデル同様、複雑なファセット加工を施したラグは ブレスレットに向かって内側に傾斜している。そう、お察しの通り。今回初めてタグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ “グラスボックス” (39mm) に3連スティール製ブレスレットが付いたのだ。ケースと同様、ブレスレットもサテン仕上げとポリッシュ仕上げが組み合わされている。

キャリバー ホイヤー02 (Ref. TH20-00) – 純粋主義者が選ぶムーブメント

前述の2023年モデル同様、この “パンダ” にもキャリバー ホイヤー02 (Ref. TH20-00) が搭載されている。コラムホイールと垂直カップリングを備えた一体型ムーブメントで、その仕様は純粋主義者の共感を呼ぶことだろう。2時位置のプッシュボタンを押すと、煩わしい揺れを引き起こすことなく、中央のクロノグラフ秒針が躊躇することなく動き出す。その上、プッシュボタンの押し心地もなめらかだ。驚異的なパワーリザーブ性能により、自律駆動は約80時間に及ぶ。

完成されたデザイン

ジャック・ホイヤーはデザインのプロではなかったにもかかわらず、完璧なウォッチデザイナーであったという点で異彩を放っている。だから、HBの鉛筆を手にして芯を削る前に、ジャックが例外だったことを思い出して欲しい。極めてシンプルなことだが、時計のデザインは専門家の仕事なのだ。

このような印象的なバックカタログを持つタグ・ホイヤーのデザインチームにとって、新作のタグ・ホイヤー カレラを考え出すのは、気が遠くなるほど大変な仕事だったに違いない。幸い、新作タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ “グラスボックス” (39mm) は、その見やすいダイヤルと好印象の外観で、前述の60年代後半の名作を見事に再現したことを証明している。その上、デザインブリーフを文句なしに達成したこの最新モデルは、ウォッチスタイルの問題を完璧なプロに任せることの賢明さも示している。そう、もちろんジャックにもだ!

アンガス・デイヴィス Escapement Magazine.com 共同創設者