スポーツ フォーミュラE 2022 ロンドン E-Prixを徹底レポート
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フォーミュラE 2022 ロンドン E-Prixへようこそ! フォーミュラEの創設パートナーであり、オフィシャルタイムキーパーでもある私たちタグ・ホイヤーが、ロンドンでのE-Prixの模様を臨場感たっぷりにお届けします。レース前の準備やチームの反応から、ドライバーのインタビューまで、フォーミュラEをリアルに体感してください。それでは早速、電気自動車に乗り込み、シートベルトを締め、アタックモードにスイッチオン!
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フォーミュラE 2022 ロンドン E-Prix
新時代の到来
地下鉄のカスタム・ハウス駅を降りるまでは、このロンドンの街のどこに、どうやってサーキットを作るのだろうと思うはずです。このエリアの道路の平均制限速度はなんと時速11.5キロ程度。横を流れるテムズ川のようにのんびりとクルマがが行き交います。エスカレーターで上にあがり、非接触型カードをかざしてカスタム・ハウス駅の改札を抜けます。
そこから地下鉄駅架橋下の通りが見渡せます。ラッシュアワーなのに、道はガラガラです。夏の日差しが、タイヤとの出会いを待ちわびて寂し気に見える舗装路にジリジリと照りつけています。そして、高視認性ジャケットを着たスチュワードも見かけます。彼らは細い道を測量しています。もうお気づきですよね。そう、ここは道路が走っているのではなく、レースサーキットなのです。
看板が立ち並ぶ大通りを歩いていくと、雄大なテムズ川の姿が目に入ってきます。リバーサイドには巨大な黒のクレーンが儀仗兵のように立っています。ドックランズはロンドンの中でも稀有な地区です。かつてはドックや造船所などが軒を連ねイギリス海運業の中心として繁栄していたものの、戦後廃墟となっていたのが再開発によって新たな息吹が吹き込まれ、現在では、高層ビルやホテルがそびえ、ケーブルカー、ロンドン・シティ空港などもあります。まさに、ここには新しい時代が到来しています。だからこそ、この街は、フォーミュラEという新時代のレースを繰り広げるのに最適な舞台だ ということにも納得がいくのです。
タグ・ホイヤー ポルシェ フォーミュラE ドライバーのアンドレ・ロッテラーとパスカル・ウェーレイン(フォーミュラE 2022 ロンドン E-Prixにて)
フォーミュラEドライバーの思考に迫る
ロンドンのサーキットは、屋内と屋外で構成されるユニークなレイアウト。エクセル展覧会センターの中にいるかと思ったら、次の瞬間にはテムズ川を抱くようにコーナーを抜けていく、といった具合です。このようなレースでは、どのような準備をするのでしょうか? ドライバーはその多くの課題にどのように対処しているのでしょうか? タグ・ホイヤー ポルシェのドライバー、アンドレ・ロッテラーとパスカル・ウェーレインにインタビューして、ふたりの考えを聞かせてもらいましょう。
プリンシパル、戦術を語る
どんなチームにも、強いリーダーが必要です。そして、フォーミュラE では特にこの傾向が顕著です。レース前で忙しいピットレーンを歩き回りながら、私たちはやっとのことでタグ・ホイヤー ポルシェのチームプリンシパルであるフロリアン・モドリンガーに数分時間をとってもらうことができました。フォーミュラEでチームプリンシパルとして求められることを聞きました。
フロリアン・モドリンガー(ファクトリーモータースポーツ フォーミュラE ディレクター)
フロリアン・モドリンガー:ざっくり言うと、私はフォーミュラE プロジェクト全体の責任者ですね。つまり、レースだけでなく、Gen3マシンの開発やテストも監督しているということです。必要なのは情熱であり、自分の仕事に没頭することです。私はレーシングが大好きだし、モータースポーツをこよなく愛しています。でも、それだけじゃダメで、経験も必要です。私は過去にさまざまなメーカーと仕事をしたことがありますから。それが経験を積むことに役立ち、より完成度の高い仕事ができるようになっていきます。日々学ぶことばかりですよ。
また、人をどうやってを導き、指導し、動機づけるかということも、チームプリンシパルとしての重要な要素だと思います。なぜなら、ここには大勢の人が関わっていて、それぞれ自分の仕事に打ち込んでいるからです。でも、大変なこともあります。例えば、クラッシュが起きたり、トラブルで長い夜になったりすると、皆にできる限りのことをやってもらわなければならなくなります。集中力とモチベーションを維持してもらう必要もあります。そうしてもらえるようにするのも、私の仕事のひとつです。つまり、チームをまとめ、モチベーションを上げ、的確な指示を出すことです。
また、レース前の心境も尋ねました。
フロリアン・モドリンガー:[ロンドンは] 屋内と屋外があり、とてもユニークなコースです。そのため、気象条件によっては実に面白いことが起こると思いますよ。私たちは準備万端なので、レースが楽しみです。
魔法がかかる場所
さて、ドライバーたちに会って頂きました。チームプリンシパルの話も聞いて頂きました。でも、チームの残りのメンバーはまだですよね。レーシングファンのあなたがピットレーンを歩き回ると、目にするもの、耳にするものは、見慣れたものであると同時に、これまでとは全く違うものでもあることにも気付かれるはずです。そこには、メカニック、スチュワード、テクニカルエキスパートたちが働いています。1秒でも、1ミリ秒でも速くフロントウィングやタイヤを交換できるよう、ピットクルーが懸命に練習している姿もあります。ピットレーンのこの部分は見慣れたものです。
しかし、他のレーシングシリーズとは異なり、フォーミュラE のピットレーンはより穏やかで、より整然としていて、より効率的であるように感じられます。外されたケーブルが転がっていることもなく、エンジン音で声が聞こえないために大声で叫び合うこともなく、耳をつんざくような轟音も聞こえません。タグ・ホイヤー ポルシェ フォーミュラE チームのガレージでは、準備が実に淡々と進んでいきます。ガレージの設営は4時間以内で終わります。チームは世界中を飛び回らなければならないため、ナットやボルトなど、あらゆる部品が再利用されます。テクニカルパネルからメカニカルギアに至るまで、ここでは全てが時計のように正確に作動するよう設計されています。そのためか、多くのスタッフがタグ・ホイヤー ウォッチを手首にしているのを見かけます。
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タグ・ホイヤー ポルシェ フォーミュラE チームのガレージ(2022 ロンドン E-Prix)
あらゆるファンが楽しめるように
エクセル展覧会センターには、たくさんの見どころが用意されています。ファンゾーンに入ると、電気によるアクティビティが目白押し。例えば、ザ ファステストラップ by タグ・ホイヤー。ロンドンのサーキットを再現したシミュレーターが並ぶゲームセンターです。電動ゴーカートのコースもあります。お腹がすいたら、多彩な料理を提供する屋台からお好きなものを選んでください。アートやクラフト感にも浸りたいなら、大人も子どもも楽しめる、壁一面にフォーミュラE アートが描かれたエリアへ。このレースウィークエンドは、あらゆるタイプのファンが楽しめるよう工夫が凝らされています。大人も子どもも、そして初心者も、必ず気になる何かが見つかるはずです(もちろん、レースは別しての話ですが) 。
ロンドンのサーキットには、グランドスタンドが点在しています。ピットレーンの反対側の屋内スタンドもあれば、テムズ川沿いの屋外スタンドもあります。コースの道幅が狭いので、観戦の楽しみも広がり、アクションをより身近に感じることができるだけでなく、コーナーではドライバーのテクニックも堪能できます。
実況放送付きレース
フォーミュラE大会の会場に用意されているサプライズ。それがアクション満載のレースフォーマットです。予選のデュエル方式は、楽しそうなだけではありません。実際に楽しいのですから。グランドスタンド脇の巨大スクリーンには、サーキットを駆け抜けるドライバーたちの順位の変動が瞬時に映し出されます。ドライバーたちが全てのセクターで相手のタイムを上回ろうとしている姿は、まるでイタチごっこを見ているかのよう。ファンとしては、予選決勝までずっとハラハラドキドキが続きます。
決勝レースまでの展開も、あらゆる意味でエレクトリック。レーススタートとなるシグナル消灯までの数分前、ロンドン サーキットの屋内コースが暗くなります。見えるのは、各レースカーの後部で光る22個の真っ赤なライトのあたたかみのある輝き。DJがロックミュージックをスピーカーから流し、スポットライトがグリッド上のドライバーを照らし、シグナルが消えるまでの時間を演出します。ライブ配信の解説もスピーカーで流されるので、重要なシーンを聞き逃すこともありません。フォーミュラEのあらゆる部分が、ファンに少しでも楽しんでもらえることを念頭に置き、微調整されていきます。
誰もが勝者
レース後エクセル展覧会センターを出て、大通りを歩き、地下鉄のカスタムハウス駅に入った後も、爽快な気分が残っています。あなたは今、新時代のモーターレーシングを目撃したのですから。より良く、よりサステナブルであろうとするスポーツの姿を目の当たりにしたわけです。それには時間がかかります。それには革新が必要です。そしてそれは、何よりも、特定のドライバーや特定のチームを勝者としてレースを終えなくてもよいということを意味しています。フォーミュラEの大会では、誰もが勝者であるかのような気分になってサーキットを後にすることができます。そして、それこそがフォーミュラEを真のユニークなものにしているのです。