スポーツ スポーツとSNS

エリートアスリートたちはオンライン フォロワーをどのように管理しているのでしょうか。

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スポーツ文化においてもSNSが欠かせないものとなり、ファンがリアルタイムでコメントを投稿したり、お気に入りのアスリートと直接やりとりすることができるようになっています。しかし、そこにはファンもいれば、中傷的な書き込みを行う人たちもいます。こうした人たちと指先で簡単に入力できてしまうSNS上で直接的な関係を持つことは、アスリートにとってどんなメリットや課題をもたらすのでしょうか。

マヤ・ガベイラ

サッカー女子ワールドカップで2大会連続優勝の記録をもつ、アシュリン・ハリス選手とアリ・クリーガー選手が、ゴルファーのトミー・フリートウッド選手、サーファーのカイ・レニー選手とマヤ・ガベイラ選手と同様、SNSの楽しさと落とし穴について語ってくれました。こうした様々なエリートアスリートたちは、ファンとの双方向関係をどのように管理し、SNSに関わることとスマートフォンを見ないようにすることとの適切なバランスを取っているのでしょうか。

高まるコントロール

SNSが普及する以前は、アスリートに対する世間のイメージは、彼らを担当する広報チームやメディアのコメンテーターたちによる果てしない合唱によって築かれ、コントロールされ、アスリート自身のコントロールが及ばない状況になることもよくありました。それが今や、SNSが私たちの日常生活に定着し、ほとんどのアスリートが、従来のメディアネットワークやマーケティングの仲介者を必要とすることなく、SNSを使ってファンと当然のように直接関わり合うようになっています。

ほとんどの場合、この比較的新しいパラダイムは相互に有益なもので、ファンにとっては、観客としてのスポーツの楽しみ方がより充実したものになる一方、アスリートにとって、SNSを通してファンとの関係を深めていくことは、重要な機会を創出し、ネガティブな報道に異議を申し立て、信念をもって取り組む活動を推進したり、単にポジティブな経験を共有し、互いに支え合う、パワフルなコミュニティを育成したりする手段となっています。アスリートが自らに対する世間のイメージをコントロールする力が大きくなったことで、スポーツメディアの状況が大きく変わりました。しかし、このような高いレベルの透明性と、直接のコミュニケーションには、プラス面ばかりでなく、マイナス面もあります。

アシュリン・ハリス選手とアリ・クリーガー選手

最大の課題

昨年、The Edge がタグ・ホイヤーのゴルフ アンバサダーを務めるトミー・フリートウッド選手に話を聞いたとき、彼はSNSがアスリートに多大なチャンスをもたらしたことを認めていました。「誰もがプロとしての自分の可能性を最大限に高めたいと思っていますが、その意味でもSNSは非常に重要です。そこから多大なメリットがもたらされますから」 と同時にフリートウッド選手は、絶え間なく送られてくる迷惑なコメントを読んで落ち込んだり、それが気になって中毒症状になる可能性さえもあることを認識し、「現代のアスリートにとっての最大の課題は、人が何と言っていようと気にせず、全てを頭の片隅に追いやる能力を持つことだと思います」と述べていました。

アスリートが名声に駆られて行動することはめったにありませんが、自分の分野でベストを尽くせば、その結果、名声は必然的についてきます。今では多くのスポーツチームや組織が、アスリートが世界的な注目を浴びることによるプレッシャーに対処するのを助けるために、彼らのメンタルヘルスをサポートするようになっています。また、インターネット企業自体も、ネット上のコメントがもたらす潜在的な悪影響に責任を負うようになっています。今年初め、Facebookは、アスリートを誹謗中傷などから守ることを目的に開発された一連のポリシーと機能を発表しました。スポーツ心理学者の中には、SNSを管理する方法を、スポーツトレーニングプログラムや幼児教育の中にさえ組み込むべきだと提言する人もおり、トミー・フリートウッド選手もそれに同意しています。「今や生活の大部分をSNSが占めているのですから、学校で習うべきものになっていると思います」

トミー・フリートウッド

エンパワーメントを推進

今の時代、ファンは、スポーツスターに親近感を求めています。また、歴史的に過小評価され続けてきた層の人々にとって、先駆的なアスリートとのつながりを感じることは、自分たちに力が与えられ、スポーツや社会に真の進歩的な変化がもたらされ始めることを意味しています。このようなエンパワーメントを促すことを有名人としての重要な責任の一つと考えることがよくあります。

今回、The Edge が米国女子サッカー界のレジェンド、アシュリン・ハリス選手とアリ・クリーガー選手にインタビューしたとき、ハリス選手はこの責任感について詳しく説明してくれました。「私たちの生活の中でSNSを通じて見せてきたことは、自分たちの立場が非難を受けやすいものであることを知ってもらうことでした。私たちは、自分たちの生活をとてもオープンにしていますが、それは人とのつながりが、私たちが誰であるかにおける重要な要素だからです」このカップルがバランスのとれた物の見方を身につけることに取り組んできたのは明らかです。「アリと私は、SNSについて、どうすれば健全なアプローチが取れるのかについて、何度も話し合ってきました。SNSは、メッセージを発信するためのプラットフォームですが、それ以外では、SNSを断ち切って、自分たちが生きている人生の中に存在しなければなりません」

クリーガー選手もこれに同意し、厳しいトレーニングや遠征のスケジュールをこなす選手たちにとって、SNSはファンと同様に家族のためのものでもあると付け加えます。「時には夢中になってしまうことがあり、自制するのが難しい人もいると思いますが、私たちにとっては、ファンや家族ともつながりを持つことは本当に重要なんです。私たちの家族は、私たちの生活の様子をSNSで確認することができます。なかなか会うことができませんからね。私がSNSを大いに楽しんでいる理由がここにあるんです」

ブラジル人のビッグウェーブ サーファーでタグ・ホイヤーのアンバサダーも務めるマヤ・ガベイラ選手も、仕事で世界中を飛び回る際のSNSの利点について The Edge に語ってくれました。「今では、物理的に遠く離れていても、家族や友人たちとしっかりとつながり合うことがずっと簡単になっていると感じています。今の時代、私たちは世界のどこにいても、今まで以上につながり合っていますよね」 クリーガー選手やハリス選手同様、ガベイラ選手も、このオンラインでのつながりや、正直でオープンでいられることが、特にこの大変な時期に、自分のキャリアにとってやりがいのあるものになっていることを実感しています。「自分のメンタルヘルスを声に出すことは、私にとってとてつもなく役に立ち、そのおかげで、これまで私が達成してきたことが可能になったと思います」

プロセスを愉しむ

タグ・ホイヤーのアンバサダーを務めるサーファー、カイ・レニー選手は、彼にとってSNSが、彼がトップの地位を維持するために必要な集中力を脅かすものになり得ることを認めていますが、トミー・フリートウッド選手同様、現代のスポーツ界で成功するためには避けて通れないものとして受け入れてもいます。「ほとんどの場合、私はプロのアスリートになるために必要なことを受け入れ、そのプロセスを愉しんでいます」

レニー選手はそれを受け入れるだけでなく、信じられないほどの気前の良さを見せ、壮絶なワイプアウトの様子を定期的にツイートしたり、息を呑むような「POV」ビデオをYouTubeチャンネルにアップしたりしています。「プロのアスリートとして私がやるべきことは、波に乗ることだけではなく、自分でコンテンツを制作することなのです。アスリートとして、積極的に状況に適応し、人々の興味を引くようなことをしなければなりません。アスリートが発信するコンテンツを見た人たちが、その選手の成長を見守り、その選手と一緒に成長していきたいと思えるようになって欲しいと思っています」

レニー選手はフォロワーに対する責任感を感じており、サーフィンのスリルを彼らと共有できるようにすることを愉しんでいます。「人々は巨大な波の中に巻き込まれるのはどんな感じなのか、いつも興味津々で、私には彼らにその経験を伝える機会があります。今まで見たこともないようなものを見たときの人々の顔を見るのは純粋に愉しいものです。つまり私は、歓びや興奮を届けているわけです」 レニー選手自身が言うように、彼が「波に叩きつけられているのが見れるのだから、見ている人は自分で波に叩きつけられる必要はない」のです。

カイ・レニー

パーフェクトな相棒

マヤ・ガベイラ選手は、自分にインスピレーションを求めてくる人たちに対して彼女が感じている責任感についても語ってくれましたが、彼女の場合は、最高の時だけでなく、最悪の時も共有することを意味していました。2013年にワイプアウトでほとんど溺死しそうになった後、ガベイラ選手は、数ヶ月にわたって苦しいリハビリに取り組みました。痛みや不安があったにもかかわらず、彼女はファンに回復までの困難な道のりを率直に伝えなければならないと感じていました。「それが私の責任ですから。私が乗り越えてきたことを共有するのはフェアなことだと思います。そこに教訓があると思います。それが役に立つのがたとえ一人、二人しかいなくても、何かの役に立てれば素晴らしいことだと思うんです」

アスリートとしての人生と有名人としての人生は対立するものではなく、手を取り合っているものとなっています。「私はただサーフィンがしたいだけなんです。それが私の一番好きなことですから。でも年齢を重ねるにつれ、より充実感を得たいと思うようになり、様々な活動や、異なるタイプの仕事を通じて、その方法を模索しています。それが私のスポーツに対するモチベーションを維持してくれます。サーフィンを続けることができ、自分にとっても人類にとっても重要なことについて発言し続けることができれば、それは完璧な組み合わせです」

ポジティブでバランスの取れた態度

SNSのアカウントを持っている人なら誰でも知っていることですが、時には多大な時間を要することであっても、ハリス選手、クリーガー選手、フリートウッド選手、レニー選手のようなアスリートたちが、膨大なオンラインフォロワーに対して、相対的にポジティブでバランスの取れた態度をとっていることは驚くに当たりません。それは、彼らがSNSによって集中できなくなったり、誹謗中傷を受けたりする可能性を認識していないからではなく、こうした側面を認識しているからこそ、それを克服すべきさらなる課題として捉え、むしろそうすることで見返りもあると考えているからなのです。おそらく何よりも重要なのは、彼らはそれぞれ自分のスポーツに情熱を持っており、応援してくれるファンとその情熱を共有できることを、歓びであり特権であると考えていることです。

最高の中でも最高のアスリートになるために必要な自制心と精神的な回復力は、人生のあらゆる分野に通じるものであり、このレベルのアスリートであれば、決定的な瞬間に雑音をかき消す能力こそが全てであることを知っています。彼らはそれぞれ、SNSのメリットを享受しながら、それ以外のことを深刻に考え過ぎることなく、暢気に構えるという選択をしています。トミー・フリートウッド選手は最後に私たちにこう言いました。「自分の髪型専用のインスタのアカウントがあるなんて、ある意味クールだと思いませんか?」

彼の言葉を信じることにしましょう(笑)