時計 デザインのストーリー:タグ・ホイヤー カレラ - パート1

5分

アンガス・デイヴィス Escapement Magazine 共同創設者

パート1 - レジェンドの誕生

レジェンドの誕生

1962年、ジャック・ホイヤーはフロリダのセブリングで開催された「12時間レース」に参加し、ホイヤー社がこの大会の公式タイムキーパーを務めました。その時にサーキットで話題になったのが、当時のメキシコを横断する危険極まりないロードレース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」だったのです。そのレースの名がジャックの興味をそそり、後に彼はこれが「ロード、レース、コース、キャリア」という考えを呼び起こしたと語っています。こうした単語は、当時のホイヤー社のブランドポジショニングとも一致していました。そこでジャックは、故郷のスイスに戻るとすぐ「ホイヤー カレラ」の名を登録します。この名は、やがて多くのクルママニアや時計愛好家の中で知らぬ者のないほどに有名になります。

翌年(1963年) 、ジャックは初の「ホイヤー カレラ クロノグラフ」を発表します。彼はスタイルに対するセンスに優れ、モダンなデザインを好みました。実際、彼が情熱を傾けた対象は、ル・コルビュジエやチャールズ・イームズが考案したアイコニックな家具や、現代建築にまで及んでいたのです。多くの評論家がジャック・ホイヤーを「美学者」と呼ぶ所以です。

ジャックには初代「カレラ」の明白なビジョンがあり、ダイヤルのデザインは、“クリアでクリーン” であるべきだと考えていました。彼のアイデアの中でも、特にインスピレーショナルなものを一つ挙げましょう。当時の「カレラ」にはめ込まれていたプラスチック製のクリスタルは、テンションリングで固定することにより防水性を高めていました。ほとんどのクロノグラフがメインのダイヤルエリアのみに表示をまとめていた中、ジャックはテンションリングに1/5秒の表示を施すことで、他のダイヤル表示のためのスペースを広げたのです。

初の「ホイヤー カレラ」は、後の多くのモデルのデザインに影響を与え続けることになるバイコンパックス クロノグラフでした。「ホイヤー カレラ」クロノグラフの中には、2つではなく3つのレジスターを搭載したモデルもありますが、いずれも前述のジャックの哲学である“クリアでクリーンなデザイン”の好例となっています。

初代「ホイヤー カレラ」はクロノグラフでしたが、2000年代初頭には3針モデルにもこの名が使われるようになりました。こうしたモデルからは、ストップウォッチの機能が排除されていますが、それでもジャックのデザインが目指したものは全面的に採用されています。事実、「タグ・ホイヤー カレラ」3針モデルは、常に極めて視認性の高い時計であることが証明されてきました。

「カレラ」が大成功を収めたにもかかわらず、タグ・ホイヤーがその栄光に甘んじることはありませんでした。製品のたゆまぬ進化に情熱を燃やす、スイスを代表するアヴァンギャルドなブランドは、最近、この人気モデルを見直し、様々な構成要素に改良を加えています。

先日、私は、タグ・ホイヤーのクリエイティブ・プロダクト・デザイン・ディレクターを務めるガイ・ボベ氏と話をする機会があり、「カレラ」のどのような点を変更・改良したのか、またその理由は何だったのかを聞くことができました。

タグ・ホイヤー カレラ (WBN2010.BA0640)

4つのバリエーション、13の新作タイムピース

今回発表された「タグ・ホイヤー カレラ」3針モデルには4つのバリエーションがあり、中には複数のダイヤルカラーで展開されるものもあります。「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー5」39mmは、時・分・秒表示に加えて、6時位置に日付表示を配しています。「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー5」41mmは、39mmモデルより一回り大きく、曜日・日付表示を備えた3針ダイヤルが特徴です。

「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー7」は41mmのケースサイズ。時針を追加することで、自国時間だけでなく、旅行先の現地時間の表示が可能になり、海外への出張や旅行の多い人に最適なコンプリケーションウォッチとなっています。自国時間を示すのは、シルバーとブルーの24時間トラックが記されたツートンカラーのフランジ。クリエイティブ・プロダクト・デザイン・ディレクターのガイ・ボベ氏と彼のチームは、日中の時間を、時間を確認する際に着用者の視線が最も集まりやすいダイヤル上部に配置しました。

最後に、「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー9」29mmは、タグ・ホイヤーが目指す “クリアでクリーン” なフォーマットで時間を示すものの、細身の手首に合わせたサイズになっています。このモデルでは、マザーオブパールまたはブルーサンレイ加工のサテン仕上げのダイヤルがあり、11個のダイヤモンド インデックスのタイプもあります。

タグ・ホイヤー カレラ(WBN2012.BA0640)

あらゆるディテールにこだわって

どのモデルを選んでも、間違いなくスポーティな上に、極めてエレガント。フォーマルな装いにも、ジーンズとTシャツのカジュアルなスタイルにも合う、使い勝手の良いウォッチです。実際、ブランドのクリエイティブ・プロダクト・デザイン・ディレクターのガイ・ボベ氏は、初代「ホイヤー カレラ」の “スポーティエレガンス” を再現することを最大の目標にしていたと言います。

さらに、ボベ氏が説明したように、クロノグラフカウンターがないことで、視線は自ずとダイヤルとケースの “構造” に集まります。プロダクト・デザイン・チームは、こうしたディテールへのこだわりにも多大な努力を払いました。単体で見れば簡単に見落としてしまうほどの些細なことであっても、全体として見た場合に、こうした点がオーナーとしての所有体験をより豊かなものにするであろうことには疑いの余地がありません。

チームはまた、2020年に「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」(42mmモデルと44mmモデル) に施された改良の一部を採用し、「タグ・ホイヤー カレラ」ファミリーのすべてのメンバーに一貫するデザイン表現を実現することにも意欲的に取り組んだのです。

タグ・ホイヤー カレラ(WBN2111.BA0639)

次回は - 「タグ・ホイヤー カレラ」の新作モデルをクローズアップ

ボベ氏と話をしているうちに、「タグ・ホイヤー カレラ」の変更点は数パラグラフでは伝えきれないことが判明しました。それどころか、詳しい説明によって当然のことだと納得させられる数々のアップグレードがオリジナルモデルに施されているのです。

そこで、パート2では、ルーペを片手にダイヤルとケースを観察し、タグ・ホイヤーがどのように各バリエーションの仕様を充実させたのか、そしてそれぞれのアップデートの背景にある思想は何なのかを探ってみたいと思います。

アンガス・デイヴィス Escapement Magazine 共同創設者