サヴォワールフェール Collected, Vol. 4、パート3

モーガン・キング&ニール・フェリエ

5分

モーガン・キングとニール・フェリエ両氏とのインタビュー パート2では、遊び心とマックイーンで話が盛り上がりました。パート3では、二人の時計蒐集への情熱、(時計への) 真実の愛、そしてフリーマーケットで見つけたフランケンシュタイン ウォッチにまで話が及びます。

The Edge:コレクターであることで最も人に驚かれる要素は何だと思われますか? 時計蒐集の世界の外にいる人たちにとっては、コレクターのどこが一番衝撃的なのでしょうか。

 

モーガン:コレクションとは自分のためにするもの。情熱がすべてです。「尊敬されるためにはこれが必要」とか「これは自分のコレクションの要になるものだから買わないといけない」という理由で時計を買い集めるコレクターもいます。でも本当にコレクターを突き動かすのは情熱だと思います。これこそが、ニールを動かしている重要な要素であり、私を動かしている要素でもあります。

 

ニール:確かに。私は、手首に着用している時計を“ソーシャル・アーマー”と呼んでいます。つまり外に出た時に自分の身を守る鎧のようなものですね。仕事柄、様々な会食やイベントに参加することが多いのですが、そんな時、時計はまさに“ソーシャル・アーマー”として活躍してくれます。30代前半には、少しでも高価な時計を手に入れる方法を考えていた時期もありました。なぜかそれが自分を証明するものになると思っていたのです。でも、ルミナスオレンジのバンフォード プラスチック ウォッチで始まるユニークな体験談の方がよっぽど多いんですよ。

 

コレクターは、好き嫌いではなく、どれが一番値段が上がるかで時計を追いかけるという間違いを犯しがちだと思います。モーガンと私がよく参加しているフォーラムでは、「3,000ドルしか使えないんだけど、これを買うべき?それともこっち?どっちの方がこれからもっと値段が上がるか?」と尋ねられるので、そうじゃなくて、好きな方を選ぶべきだと言うんです。3,000ドルであろうとなかろうと、自分の手首に着けるものは、金銭的な価値があるかどうかで判断するのではなく、自分の心に響くものを探して欲しいのです。

 

モーガン:その通り。自分がそれを好きだから買うんですよ。

 

ニール:モーガンは、自分のためにたくさん買っていますよね。

 

The Edge:価値ということについてですが、明らかにヴィンテージ ホイヤーの価格はこの10年で急上昇しています。この主な理由は何だと思われますか?

 

ニール:簡単に言うと、レースの伝統を追い求められること。振り返ることのできるストーリーがあること。今のタグ・ホイヤーを見ると、その遺産を様々な方法で表現することによって成長を遂げています。ポルシェが基本的に強い理由のひとつも、55年から60年前にさかのぼることができる911の系譜にあると思います。

The Edge:モーガンさん、あなたのお考えは?

 

モーガン:2点あります。先ず、時計は靴箱に入れておいても問題がないということ。素晴らしい芸術作品で、しかもどこにでも持っていけますからね。そこが気に入っています。それにまた、そこには情熱が込められています。ニールを例にとって説明しましょう。彼がウイスキー用のスキットルを作ったのを彼のウェブサイトを見て発見し、私は「これをニールが作ったんだって?」と感心しました。素晴らしいと思いました。なぜなら、それは彼が情熱に駆られて作ったものだからです。私はお酒を飲まないので、スキットルにはコーヒーを入れていますよ。何かに情熱を燃やしていると、話し方にもそれがにじみ出てきます。ジャン・クロード・ビバーがなぜ究極のショーマンと言われるのか? それは彼に情熱があるからです。彼は自信たっぷりに話します。その話し方には愛情があふれています。相手があなたを馬鹿にするようなことを言っていようといまいと、自分のコレクションを愛している時計コレクターと話していると、それが伝染します。

 

60年代からのホイヤーの歴史を振り返ると、とてもセクシーです。レーシングのルネサンスが絡んでいることも、大きな要因になっていると思います。ホイヤーは復刻版をたくさん出していて、新しいものを見せることを恐れていません。バンフォードのコレクションもあるし、ゴルフバージョンもあります。「オータヴィア」は以前はオレンジでしたが、現在はレッド、グリーンですし、キャリバー02を搭載しています。今の時代、新しいことに挑戦するのをとても恐れる傾向にあるので、同じようなものを見飽きてしまいました。私たちは、新しい色、新しいライフスタイルを求めているのです。新しいことに挑戦しないと、感動は味わえません。

 

The Edge:ホイヤーの歴史の中で、評価が低すぎると思われる時計はありますか? あるいは、もっと一般的に、復活して欲しいと思うデザイン要素はありますか?

 

ニール:私はビジュアルから機能を考えます。ですから「パサデナ」はまだまだこれから通用すると思います。今この時計にどれくらいの価値があるかを把握しきれていないのですが、仮にこれを1,500ドルの時計としましょう。ブラックの「パサディナ」は、見た目にも、クロノグラフのレイアウトに優れ、引き締まった時計になっています。そこに伸びしろがあるのですが、あまり知られていません。私はこの時計は実に素晴らしいと思います。個人的には、ダッシュタイマーやダッシュクロックの復活も見たいです。私はクルマ志向がとても強い人間なのですが、私が知っているクルマのコレクターの多くが、ビンテージレースやクルマを体験することに再び関心を寄せています。あるいは、机の上にただ置いておくような、見た目の美しい、新しい解釈による置時計が出てきても私は驚きません。ちょと主流から外れた考え方でもありますが。

 

The Edge:いいですね。

Heuer Carrera 1158

モーガン:「パサデナ」は確かにそうですね。「モントリオール」も。あまり勝てないドライバーが身につけていた時計だったので、ほとんど報道されませんでした。でも、ご存知のように「カレラ1158」は、いつもチャンピオンに贈られていました。だから偉大なドライバーたちは全員この時計を持っていた。ニキ・ラウダも持っていましたね。それにクラシックと謳われた2446も皆に愛されています。私は、昔から (タグ・ホイヤーの) ヘルメット型の目覚まし時計が大好きでした。全コレクションを持っていますよ。驚きでしょう。Hodinkeeのトラベルクロックはかなりのバッシングを受けましたが、この話は聞いたことがありますか?

 

ニール:当然の報いだ() 。

 

モーガン:でも今やその時計が1万ドルにもなっていて、誰も売ろうとしないんですよ! 言ってみれば、“カルト クラシック”的なものを作ったわけです。個人的にはこうしたヘルメット時計は大好きですね。過去のことを語りながら、未来のことも語っているので、クールだと思います。私はいつもこうした時計の評価が少し低すぎるなと感じています。

 

ニール:サイズも含めて、様々な時代や流行を経てきたと思います。42ミリの時計のように、5年前、10年前に比べてまたサイズが大きくなっていると感じます。今、キッズウォッチのブランドを立ち上げる準備中なので、33ミリの時計を着けています。小さな時計ですが、手首に着用するとちょっと楽しいですよ。また「Dato カレラ」などは、小ぶりですっきりしたデザインのブラックダイヤル ウォッチなので、価値的にはまだまだ上がる可能性があると思います。タキシードのようですよね。今、特にお買い得な時計というわけではありませんが、まだまだ上がる余地があると思います。

Heuer Monaco 1133B

The Edge:モーガンさんは、タグ・ホイヤーの時計を表現するのに「セクシー」という言葉をよく使いますよね。最もセクシーな時計はどれですか?

 

モーガン:聞かれると思いましたよ。「モナコ」です。ジャック・ホイヤー風に言うと、「ナ」にアクセントが付いて「mo NA co」ですね。草分け的存在です。すべてが丸かった時代に、スクエアのブルーを出したんですから。これよりセクシーな時計がありますか? アイコンですよ。アンディ・ウォーホルが描いたキャンベル スープ缶のようなもので、センセーションを巻き起こしたけれど、今では歴史の一部となっているように。僕にとっては最もセクシーな時計です。

 

The Edge:具体的にはどれですか?

 

モーガン:最高傑作である、「1133B」ですね。永遠に不滅です! 最高のブルーだ。

 

The Edge:ニールさんはどうですか? あなたにとっての至高の一品は?

ニール:2つあります。先ずは、“オレンジボーイ”「オータヴィア」。一匹狼ですからね。きっと何かはっきりしない理由で反論する人がいるでしょうが、ビジュアル的にこれに勝る時計はありません。シルバー、グレー、オレンジを使っているんですから。(ロレックスの) ペプシ ベゼル GMTの隣に置いても遜色のない、一匹狼のアイコニックなタイムピースであり、素晴らしいと思います。いまだにユニークですからね。また、見た目のバランスを考えても、リントでもGMTでも。私にとってリントは常に憧れの2446でした。ビジュアル的にも、重さの面でも、ラグのサイズでも、これが一番しっくりきましたね。

 

モーガン:1163Vも。

 

ニール:もちろん。

 

モーガン:大変な思いをして手に入れた時計なんですよ。2013年にホイヤー サミットに参加したとき、そこに2本の1163Vがあって、「これは何だ?手に入れなくちゃ」と思ったわけです。売ってくれる人がいないか、あらゆる人に聞いて回りましたが、誰も売ってくれませんでした。3日間で誰彼となく話をして、サミットが終わる頃までには話をしたことがない人がいないくらいでした。「1163Vを売りたいと思っている人は、連絡をください」ってね。当時の値段で1万1千ドルか1万2千ドルくらいで、ホイヤーにとってはかなり高価なものでしたが、私は「なるようになれ。幸運は大胆な人に味方するんだから」と思っていました。子どもたちが大学に行けなくなってしまうかもしれないな、とも思ったりもしました。皆に「売ってください」と言っていたので、旅の終わりには4本を手にしていました。全てをキープしておくことはできませんでした。だからこそ、私にとって1163Vはとてもセクシーなのです。つまり、それを手に入れるために経験したことが“セクシー”だということです。

 

ニール:時計を手に入れるために僕たちが繰り広げた冒険談を語り始めたら、あと2時間はかかるでしょうね。

 

The Edge:是非、手に入れたときのお話を聞きたいものです。隠さないで、ニールさん、是非聞かせて下さい。

Heuer Autavia 1163V

ニール:例えば、私が持っていた2446リントには、オーナーとジャック・ホイヤーとの言い争いを記録した書類が付いていました。基本的にオーナーは3回も修理に出すことになったので、最終的にはジャックに彼の会社はクズだと言い放ったわけです。二人は、お互いに手紙で、かなり感情的に言い争っています。でもこの時計を手に入れたいきさつはちょっと危なかったです。当時、私が時計に使える金額は3千ドル程度だったんですが、それを知らないまま1万7千ドルをあるシカゴの男性に送金してしまったんです。彼は、携帯電話で撮影したぼやけたNRAの会員証の写真を身分証明書として送ってきました。私は「このために家を手放すことになるかもしれない」という不安もあったのですが、ここでやめるわけにはいかなかった。運よく時計は届きましたが。アベルにその時計の写真を撮って送ったら、心臓が止まるかと思った、と言われました。また、“ビッグアイ”と呼ばれる初代「オータヴィア」を見つけたのですが、「オータヴィア」のものはケースとダイヤルだけで、ケースバックはブライトリング、針はロレックス、その他にも様々なメーカーの部品が使われていました。フリーマーケットで見つけて、他のコレクターに売ったんですが、その人がどうにかすることができたようでした。

 

The Edge:そのフリーマーケットで見つけた時計はいくらだったかお聞きしてもいいですか?

 

ニール:1,200ドルで手に入れたと思います。

 

The Edge:フリーマーケットにしてはずいぶん高いですね(笑) 。

 

ニール:売る方もそれだけの価値があるものだと知っていましたからね。実際には2千ドルで売りに出ていたと記憶していますが、私は「4種類の時計を組み合わせただろう。そんな値段じゃ売れないよ」って言ってやりました。

 

The Edge:まさにフランケンシュタイン ウォッチですね。

 

ニール:その通りです() 。

 

The Edge:今は感染症の例え話はしにくいのですが、モーガンさんが情熱は伝染するとおっしゃっていたように、お二人のコレクターとしてのエネルギーや情熱も確かに伝染しますよね。

 

モーガン:私たちだけに関わることではないですからね。私たちが、誰かが次の時計を見つける手助けをして、そうしたコレクターたちを結束させることができれば、それが全てだと思うんです。それが私たちの趣味ですから。そうするのが好きだから。

 

ニール:それにコレクターのコミュニティは本当にフレンドリーですからね。

 

モーガン:本当です。私は「彼とは話したくない、彼はこれとあれしか持っていない」というような人と一緒にいるのは好きじゃない。一体何様のつもりだと思いますよ。でも、ホイヤーファンは全くもって素晴らしい。真面目で、地に足がしっかりついています。ただ、その中でも私たちが二人が最もセクシーだということは明言しておきましょう。

 

ニール:もちろん。このシリーズの中で、私たちこそが、最も若々しくて、魅力的で、ユニークな2人組だと紹介していただきたい。

 

The Edge:何とかしてみます。