スポーツ オフシーズンは、オラクル・レッドブル・レーシングにとって最も重要な時期?
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クリス・メドランド F1ジャーナリスト&ブロードキャスター
2024年3月2日、バーレーンGPでの勝利を祝うマックス・フェルスタッペン © Mark Thompson / Getty Images / Red Bull Content Pool
今シーズン、タグ・ホイヤーがパートナーシップを務めるディフェンディングチャンピオンチームは、これ以上ない好スタートを切った。2024年3月2日 (土)、オラクル・レッドブル・レーシングの2人のドライバー、マックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスが、バーレーンで行われた今シーズン初のグランプリで、記念すべきレースを終えて表彰台のトップ2に立った。このレース以降、彼らはランキングの上位を独占し続けている。
オラクル・レッドブル・レーシングにとって、その闘いはシーズン開幕レースよりもずっと前から続いてきた。ただし、ワールドチャンピオンチームとそのライバルたちとの間で繰り広げられるそうしたバトルを目にすることは全くない。シーズンが終わり、次のシーズンが始まるまでの間はシーズン中とは異なるペースで時が流れていくものだが、だからと言って時が止まっているわけではなく、頂点を目指すこの間の努力の成果を見るのが待ちきれないものだ。
© Mark Thompson / Getty Images / Red Bull Content Pool
F1レースはストップウォッチが計測するタイムだけでなく、ライバルたちとの間にどれだけタイムゲインが見込めるかの闘いでもある。タグ・ホイヤーのタイムピース同様、その驚くべき精度は、ステアリングを握るマックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスのドライビングだけでなく、複雑でありながらも極めて美しいマシンを生み出すオラクル・レッドブル・レーシング・チームの卓越したエンジニアリングにも及んでいる。
そして、F1におけるタイムとライバルの両方との闘いは、コース上だけでなくコース外でも繰り広げられる。だからオラクル・レッドブル・レーシングは、翌年のマシンを可能な限り競争力のあるものに仕上げるために、今まさに計画を練っているところなのだ。
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© Rudy Carezzevoli / Getty Images / Red Bull Content Pool
今シーズンの展望
サバイバルセルとギアボックスからなるシャシー自体の構想は、今シーズンのマシンがサーキットを走る前に次のシーズンのために描かれている。最初のコンセプトを2シーズン前の最終段階まで遡ることもできるが、それはデザイナーたちが数ヶ月先だけでなく、数年先のことまでも考えているからだ。
これは特定の部品の製造とテストに必要なリードタイムのせいでもあるが、そこにはコンセプトから最大限のパフォーマンスを引き出すために、可能な限り開発時間を確保したいという願望も込められている。それぞれのチームがライバルより優位に立とうとしているのだから、早くスタートできる分だけ、様々なアイデアや解決策を試す時間が増えることになる。
この闘いを非常に複雑なものにしているのが、F1チームが開発にかけられる費用の上限を設けるコストキャップなるものの存在。また、コスト面から人員に制約があるだけでなく、マシン開発の大半が行われる風洞や数値流体力学 (CFD) にかける時間にも制限がある。
ここで言っているのは、技術的なことに過ぎないかもしれないが、アイデアを出し、部品を設計し、最終的にマシンを走らせるのは人間だ。フェルスタッペンもペレスもコース上でライバルたちを見ることができるため、レースシナリオの中で彼らに対応することもできるが、ミルトン・キーンズにあるオラクル・レッドブル・レーシングのファクトリーに戻った空力学者やエンジニアたちは、ライバルたちとの比較で、暗中模索の作業をすることになる。
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© Clive Rose / Getty Images / Red Bull Content Pool
そしてその作業工程は、皆が想像しているよりもはるかに長い時間を費やして行われる。製造時間を考えて必要な部品を全て間に合わせるため、シャシーは前年の7月から9月までの間に完成するようリリースされる。タイトル争いが最終局面を迎えている間、ファクトリーが現在進行中のバトルとは何の関係もない作業に必死に取り組んでいることがよくある。
フロントウイングやリアウイング、主なボディワークなど、空力の主要項目は、チームが強制的にクリスマス休暇を取らされる前の12月中旬頃には終了となる。こうしたことは、全てが予定通りとなっていることを確実なものとするため、新年早々、最初のマシン作りのために準備が整っているようにする必要がある。
最後に、小さな部品は、マシンの発表に合わせて1月下旬にリリースされ、2月の撮影日に初めてマシンがコース上を走行する際に初めてフル装備されることがほとんどだ。今年の寒く雨降るある日、シルバーストーンでRB20が走ると、様々な部署のスタッフはようやく、自分たちが受け持った仕事が全体像の中でどのような位置づけにあるのかを理解することができたのだった。
© Clive Rose / Getty Images / Red Bull Content Pool
終わりのないレース
あとはマシンをプレシーズンテストのためにバーレーンに運ぶだけとなる。序盤戦を走るマシンを完成させるまでに1年以上を費やし、何百人もの人々の努力の結晶によって、自分たちの仕事が、それまで何年もの間苦労して勝ち取ったドライバーとコンストラクターのチャンピオンの座を守るのに十分な競争力を持つマシンにつながったかどうかをようやく知ることができる。
だが、マシンの仕事がそれで終わったわけではない。マシンをアップグレードさせるため、通常は夏休みまで空力の開発は継続される。驚くべきことに、こうした最終的な開発は、競争力がどういうものであるかということが分かっている中で取り組まれる唯一の側面なのだということ。それ以外は全て、どうすれば十分になるのかも分からないまま、マシンの性能を可能な限り向上させる時間との闘いになる。
そして、将来のマシンに費やせる時間が多ければ多いほど、そのマシンがライバルより優位に立てる可能性が高くなり、その結果、翌年に向けてさらなる収穫を得ることができるというポジティブなスパイラルが生まれる。これが昨シーズンのRB19で起きたことだが、これによってエイドリアン・ニューウェイとピエール・ワッシュが率いるデザインチームが、今シーズンのマシンの開発にさらに長い時間をかけることを可能にし、オラクル・レッドブル・レーシングのタイトル保持を可能にすると期待されるシングルシーターとして注目を集める「RB20」が誕生したのだ。
クリス・メドランド F1ジャーナリスト&ブロードキャスター