時計 赤く染まったカレラ

3分

ジェフ・スタイン ウォッチコレクター/OnTheDash.com 創設者

タグ・ホイヤー カレラ レッドダイヤル リミテッドエディションを詳しくご紹介する前に、長年にわたってタグ・ホイヤーというブランドが、モーターレーシングの興奮を伝えるためにこの「赤」という色をどのように使いこなしてきたかを振り返ってみることにしましょう。

タグ・ホイヤー カレラ レッドダイヤル リミテッドエディション(CBK221G.FC6479) 、2022年

かつて、クロノグラフと言えば、”ブラック&ホワイト” でした。ホイヤーを初めとする多くのスイス時計ブランドでは、クロノグラフがポケットから手首に移った時代(1920年頃) から1960年代にかけて、ダイヤルは黒か白のどちらかでした(あるいは黒と白を組み合わせ、ダイヤルとレジスターのコントラストを強調した場合もありました) 。ホワイトダイヤルに赤や青の目盛り(タキメーターやパルセーション用が一般的) がプリントされたクロノグラフもありましたが、こうしたカラーも単にホワイトダイヤルのアクセントに過ぎませんでした。

「レッド」登場

ホイヤーでは、1960年代後半から鮮やかな色使いが加速します。1962年の誕生以来、「オータヴィア」はブラックダイヤルのみでしたが、1969年に鮮やかな赤のクロノグラフ秒針と、アワーマーカーに隣接する赤いハッシュマークが追加されます。この年、次いでミッドナイトブルーまたはチャコールグレーのダイヤルが印象的な「モナコ クロノグラフ」が発表されると、ホイヤーの赤のアクセント使いはさらに顕著になります。メインの曜日針には、幅広の赤のインサートがあしらわれ、先端の三角形にも赤が使われていたからです。オータヴィアは1972年頃にアップデートされ、針とダイヤルに同様の赤のアクセントが取り入れられました。

より「レッド」に

1970年代に入ると、ホイヤーはブラックダイヤルのアクセントとして使用していた赤を、フルレッドダイヤルへと移行させます。1971年、ホイヤーは「イージーライダー」と「テンポラーダ」という2つの “エコノミー” モデルを発表します。ダイヤルには赤と白の部分がバランスよく配置され、その後も赤はアクセントカラーとしてよく使わ続けました(例えば「モントリオール」や「スキッパー」といったモデルで) 。

1974年、ホイヤーは、1970年代のスタイルとエネルギーを捉えた新作クロノグラフモデル「シルバーストーン」を発表します。このシルバーストーンでは、ブルー、フュメ(スモーク) 、レッドの3色がダイヤルを彩っています。シルバーストーンは、ホイヤーが初めて赤単色のダイヤルを採用したモデルで、インナーベゼルにもダイヤルと同じ色を配すことで、深紅のダイヤルをより一層際立たせています。シルバーストーンは、ホイヤーが初めてクロノグラフにフルレッドダイヤルを採用したモデルですが、その後45年間、ホイヤーおよびタグ・ホイヤーがこのダイヤルカラーを使用することはありませんでした。

「レッド」の復活 -- 2019年

2019年、「モナコ」誕生50周年を記念して、タグ・ホイヤーは5種類のモナコ クロノグラフシリーズを製作し、各モデルがそれぞれの10年間を象徴していました。その中で、1979年から1989年の10年間を表現するために、タグ・ホイヤーが製作したのが、深紅のダイヤル、グレーのレジスターを備えたモナコでした。「オータヴィア」初のレッドダイヤルは、2020年1月、タグ・ホイヤーが干支の子(ねずみ) 年を祝って、ブロンズケースにディープレッドダイヤルを組み合わせて発表したスペシャルエディションでした。

  • タグ・ホイヤー カレラ レッドダイヤル リミテッドエディション(CBK221G.FC6479) 、2022年

モーターレーシングのための「レッド」

ホイヤーは50年以上にわたりクロノグラフに赤のアクセントを用い、オータヴィア、モナコ、シルバーストーンを初めとする一部のモデルにフルレッドダイヤルを採用してきましたが、ここで「それならカレラは?」という疑問が生まれます。カレラはレーサーのためのクロノグラフとして1963年に発表され、レッド系の色合いで興奮とドラマを表現するのにうってつけのコレクションであろうと考えられるからです。

赤は、1950年代から60年代にかけてフェラーリ、アルファロメオ、マセラティが採用していたイタリア製レーシングカーのナショナルカラーでもありました。タコメーターの赤い線は、レーシングエンジンの最高速度を示しています。赤はまた危険を表す色でもあり、サーキットで事故が起きるとレッドフラッグ(赤旗) が振られ、レースも出血を伴う悲劇に耐える場所となる場合があります。

ホイヤーは1963年から1985年まで100種類以上のカレラを製造しましたが、その中で赤はアクセントとして使用されたものの、どのモデルでも目立った存在感を放つ色使いとなることはありませんでした。

タグ・ホイヤー カレラ レッドダイヤル リミテッドエディション

初代カレラの誕生から60年近くを経た今、タグ・ホイヤーはカレラで初めてレッドダイヤルを搭載したモデルを発表します。これによって、モーターレーシングのエネルギー、レーサーが限界に達したときの興奮、そしてもちろんモータースポーツにつきものの危険を「赤」という色を使って表現したカレラがついに登場したのです。新作カレラのレッドダイヤルを引き立てているのが、ダイヤルと針に使用されている暖色系の夜光塗料です。

最新のカレラは、タグ・ホイヤーの “グラスボックス” ケースを採用。この39mmのケースには、1960年代の初代カレラに使用されたプラスチック製ヴィンテージクリスタルのジオメトリックなスタイルと独特な魅力を彷彿とさせるモダンなサファイアクリスタルを組み合わせています。ムーブメントには、サーキットの厳しい要求に応える耐久性を備えた「ホイヤー02」を搭載。ローターには赤のレタリングを施し、コラムホイールは赤に染め上げています。

カレラは、常にタグ・ホイヤーのクロノグラフとして、モーターレーシングのエネルギーとロマンを捉えてきました。ディープレッドダイヤルと暖色系の夜光塗料によって、新作「カレラ レッド “スペシャルエディション”」は、そのポジションが、新たな次元となるレッドラインにまで引き上げられています。

ジェフ・スタイン ウォッチコレクター/OnTheDash.com 創設者