ストーリー Eを学ぶ:フォーミュラEは何が違うのか

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フォーミュラEを世界の中でひときわユニークなモータースポーツにしている理由をご紹介します。

モーターレーシングファンからよく聞かれる質問のひとつに「フォーミュラEは何が違うのか?」というものがあります。何世代にもわたるレーシングイベントを見つめ続けてきた私たちには、新しいタイプのモータースポーツに足を踏み入れることは常にチャレンジングです。フォーミュラEはまだ8年ほどの歴史しかありません。フォーミュラEの創立パートナーであり、オフィシャルタイムキーパーでもある私たちは、フォーミュラEがよりよいものになり、ファンと関わり合い、感動させ、魅了する方法を見出そうと絶えず努力している姿を目の当たりにしてきました。そして、若いスポーツであるにもかかわらず、そのファン層は毎年飛躍的に増え続けています。マシンは進化し、レースはどんどんと高速化し、戦略はより合理化され、スリルと興奮がますます多くの人々の目を奪うようになりました。そこで、今回は、冒頭の問いに答えるべく、フォーミュラEのレースはなぜ他とは違うのか、その理由をいくつかご紹介したいと思います。それでは、スタート位置についてください。

ユニークなコンセプト

フォーミュラEを他のモータースポーツと違うものにしているのは、「電気」という考え方だけです。2011年にフォーミュラEの構想が持ち上がったとき、世界の他のレーシングイベントのほとんどはまだ燃料を使って走っていました。フォーミュラEは、現在私たちが目にする電気自動車のレースの萌芽となる、大きなインスピレーション源のひとつです。そこで、マシンや戦略といった本題に入る前に、フォーミュラEのコンセプトそのものが型破りであることをここで改めて強調しておくのも価値があることではないかと考えました。そのコンセプトとは「斬新な発想が必要な世界のための、未来志向のモータースポーツ」というものです。

ズームイン:エネルギーマネジメント

猛スピードでチェスをするように

エネルギーマネジメント。それは、エネルギー目標を達成することであり、レース終盤に向けて十分なエネルギーを蓄えることでもあります。こうしたことから、フォーミュラEでは独自のレース戦略が不可欠になります。時速250km以上でチェスをするようなものだと言われる所以です。電気がモータースポーツに全く新しいスリルをもたらしているのです。レース戦略や目標は、複数の異なるレースやエネルギー管理の結果に基づいて実行される複雑なソフトウェアを使用して策定されます。こうしたソフトウェアが提案する戦略は、気温の変化、ライバルマシンの相対的なペースやエネルギー効率の結果に基づいています。チームとドライバーは、ソフトウェアが提供する複数の戦略に対して、状況を先読みしてプロアクティブでいくか、状況に合わせてリアクティブでいくか、意見を一致させておかなければなりません。セーフティーカー、黄旗、赤旗、レースペース、エネルギー使用量。こういった不確実な要因全てが、チームが有利になるような新しい戦略を生み出します。

公平な競争の場の創出

現在、サーキットを走っているGen2 マシンは、フォーミュラEの第2世代にあたるオール電化フォーミュラカーで、チームがマシンに対して行っていいことを定めた厳しいレギュレーションのもとでレースができるよう設計されています。

この考え方は、レースが繰り広げられる場を平準化することに基づいています。フォーミュラEは、可能な限りタイトな競争を実現しようとしています。このため、計器、シャシー、バッテリー、エアロダイナミクス、タイヤ、ファンダメンタルズは全て同じワンメイクです。こういった点が、グリッドのライバルより常に先んじるために部品を交換したりする自由が一部のチームにより多く与えられている他のモータースポーツと異なるところです。また、開発費が制限されているため、より多くのチームがフォーミュラEに参入し、シルバーウェアに挑戦することも容易になっています。

同時に、フォーミュラEは既成概念に囚われないエンジニアリングが違いを生み出す余地も与えています。エンジニア、チーム、メーカーは、重要なパワートレインとソフトウェア、そしてマシンのリアサスペンションとそのセットアップを自ら開発することができます。

ズームイン:シャシー

精度が命

完璧なレーシングライン。技術的な問題はゼロ。ストリート スマート。こうしたことは全て、どのようなモータースポーツにおいても、成功するためには重要なのことですが、フォーミュラEではさらにその重要性が高まります。これだけグリッドが狭く、マージンが小さいと、全てのターン、全てのロックアップ、全てのコーナー、全ての戦略の変更が、表彰台に乗れるか、敗れ去るかの分かれ目になります。その競争力とタイトなサーキットのために、レースは予測不可能なものとなっています。定期的にクラッシュが起こり、オーバーテイクも頻繁です。ほぼ全てのレースで、ポールシッターと表彰台フィニッシュのドライバーが異なる傾向にあります。

ズームイン:ステアリングホイール

より接近戦でのドライビング

フォーミュラEのマシンはどれも同じように競争力があるため、ドライバーがレースの主導権を握るにはかなりの努力が必要です。小さなミスがあれば、いつでも誰かが後ろにいて、飛びかかろうとします。10秒のギャップは、ここでは無いに等しいものです。1位からグリッドの最後尾まで、レースは常にどう転ぶか分からないリスクがあります。

これは、フォーミュラEマシンの設計に大きく起因します。内燃機関を搭載したマシンのレースでは、前を走るマシンが排出する汚れた空気を吸い込みながら走ることがほとんどです。これにより、後続車の空力的なグリップが低下し、タイヤがオーバーヒートしてしまいます。しかし、フォーミュラEでは、電気パワートレインが高温で重い排気ガスを吐き出すことはありません。そして、ウィングやボディワークが過剰なダウンフォースを発生させることもありません。こうしたことは全て、フォーミュラEマシン同士がノーズ トゥ テールでレースができることを意味しています。また、車体後方からの気流を分散させるディフューザーも専用設計され、より接近したレースができるようになっています。より近接したレースは、よりエキサイティングなレースを約束します。

手ごわい市街地コース

もうひとつの差別化要因としては、フォーミュラEが市街地サーキットを走るという点が挙げられます。曲がりくねった細い路地が、レースをより予測困難でサスペンスフルなものにしています。オーバーテイクのリスクが高いため、仲間のドライバーの間をすり抜けるか、取り残されて衝突を誘うかのどちらかです。フォーミュラEでは、どんなサーキットも簡単ではありません。だからこそ、経験豊富で道を良く知っている、文字通り“ストリート スマート”になる必要があるのです。

エレクトリック ドリーム チーム

創立パートナーであり、公式タイムキーパーであることに加え、私たちがポルシェと組んでフォーミュラEチームを結成していることは、もうお話したでしょうか。ここで改めてご説明しましょう。タグ・ホイヤー ポルシェ フォーミュラE チームは、2019年-20年シーズンからこのスポーツに参戦しています。すでにいくつかのシルバーがキャビネットに収まっていますが、私たちが目を向けているのはエレクトリックな賞です。ドライバーのアンドレ・ロッテラー、パスカル・ウェーレイン、そして才能豊かなエンジニアやビジョナリーたちとともに、フォーミュラEにさらなるエネルギーを与えていきます。

まだ始まったばかり

ここまで、コンセプト、マシン、戦略、レーシングスタイル、サーキットについてご紹介してきました。これはほんの始まりに過ぎません。フォーミュラEが違う理由は、サステナビリティ目標、社会的・文化的な影響、教育プログラム、より優れた技術への取り組みなど、他にもたくさんあります。今後もこの「Eを学ぶ」シリーズでは、こうしたこと全てをご紹介していく予定ですので、どうぞお楽しみに!