スポーツ 雪と、情熱と、感情の高まり:フリーライドを知る

8 min

果たしてエクストリームスキーヤーの頭や、体や、心の中では、いったい何が起こっているのでしょうか。世界屈指のフリーライダー、ワデック・ゴラクが明かします。

壮麗な銀世界。垂直の断崖が切り立つ3000メートルを超える斜面。普通の人間には不可能に思える滑降。そして、時速100キロ以上で突き進み、飛び、跳ね、宙返りし、さらに加速する黒い人影…。フリーライドは、見る側の息をも切らせるスポーツです。

果たしてエクストリームスキーヤーの頭や、体や、心の中では、いったい何が起こっているのでしょうか。世界屈指のフリーライダー、ワデック・ゴラクが明かします。

完全なる表現の自由

まさに名前の通り、「フリー」ライドとは、自由に、好きな場所で、好きなようにスキーをするという、ごく「シンプル」なもの。ワデック・ゴラクにとっては、「自分自身の精神状態で、何かをふるいに掛けたり制限を付けたりすることなく、山へと挑む自分だけの方法で滑ること。まさに、スキーについて完全に自由に表現するということです」。彼を象徴するもの。それが、印象的なバックフリップです。ベック・デ・ロス山の伝説的な斜面で行われたフリーライド ワールドツアーのファイナルで、彼の勝利に貢献したのがまさにこの技でした。

競技におけるフリーライドは、さほど「フリー」ではありませんが、その本質は変わりません。スタート地点は山。そしてゴールは、可能な限り早く進み、できるだけごつい岩肌を飛び越え、一番美しい姿で、もっとも独創的でありながらも同時に、可能な限り正確で、統制の取れた姿で滑るということ。こうしたすべての基準が、最終スコア、ひいては世界ランクへとつながります。「フィギュアスケートに少し似ていますね。山の上ですけど」

ワデックは、フリーライドの3つ目の側面、回転も付け加えます。彼にとって、見る人が喜ぶようなことを見せ、エネルギーを伝えることは、スポーツに欠かせない一部なのです。「つまりは、スキーで得られる喜びを共有し、幸福感を広げたいということです。たとえば、アクアレーサー プロフェッショナル200のローンチで氷の洞窟の中で撮影しましたが、あれは本当に信じられない体験でした」。さらに、ほかのカリスマスキーヤーたちのイメージもインスピレーションとなりました。伝説のセブ・ミショーが成功させた22メートルのバックフリップや、最近では、フリーライダーであり映像配信も行っている才能豊かな先駆者、キャンディッド・トベックスです。

ワデック・ゴラク、プロスキーヤー

始まりは、山から

どのフリーライダーも、山とは密接な関係性があります。ほとんどの場合、山の近くに生まれ、山からインスピレーションを得て、山は活力と挑戦の源となっています。ワデック・ゴラクは、2歳頃からアルプ=ド=オート=プロヴァンス県のゲレンデに立ち、祖父の肩に乗って矢のように早く滑っていました。「僕は、山でエネルギーやフィーリングを追い求めています。山に戻るのは、よい気分を味わうためです」。このため、彼にとって、山を守ることは当然のことです。「僕は自分の孫たちが、道でノロジカに出くわしたり、ノウサギやオオカミを見かけてびっくりしてほしいと思っています」

ワデックのここまでの道のりは、ほかのフリーライダーがたどってきたものと一致します。スキーが盛んな地域で子供時代を過ごし、アルペンスキーに親しみ、それからよりクリエイティブなアプローチとして、フリースタイルスキーへと進む。そして最後に、フリーライドだから実現できる山へと戻るという道のりです。「フリーライドの方程式とは、山 + フリースタイル + アルペンスキーなのです。エクストリームスキーには、このそれぞれの分野に才能が求められます」

ですから、いきなりフリーライドから始めるというのは不可能です。バックカントリースキーの卓越したレベルだけでなく、経験とプロの付き添いも必要だという点からも、この競技に付きまとう危険がどれほどなのかがわかります。「本当に危険です。特に若い人の場合は、経験豊かなライダーと一緒に行くのが好ましいくらいです。僕は、雪崩で友人を失うことがどういうものなのか知っています。だから、疑問に思うことをためらってはいけませんし、僕のInstagramに書き込んでくれても構いません」

ワデック・ゴラク、プロスキーヤー

一年にわたるトレーニング

フリーライドの練習ルーティンは季節によって変化します。11月から4月末にかけては、スキーの季節。トレーニングと大会が集中するシーズンです。ワデックは冬の間にその過酷さから体重が4~5キロ落ちると話します。「その後、僕は2か月のバカンスを取ります。この間はまったく何もしません。身体を休め、脳を解放するのです」。  

6月になると、山で歩いたり、自転車をこいだり、身体を動かし始めます。しかし、特別なフィジカルトレーニングを課すことはありません。そして、7月。週に4度、フィジカルトレーナーが訪れ、そのサポートには体重を戻すことも含まれます。10月からは、心拍、緊張、自己受容性感覚を鍛えます。こうした能力は、自身の身体と四肢の正確な位置を無意識のうちに把握するためのもので、フリーライダーに欠かせない一種の第六感とも言えます。ランのときに必要となるのは、すべて運動反射だからです。そして体育館に置かれたトランポリンでバックフリップを行います。

タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル200(WBP2111.BA0627) を着用したワデック・ゴラク

フリーライドに必要なものは、場所の探知

その場所の状況や地形を知らずに険しい斜面に飛び込むことは、自殺行為です。大会で用意されるものは、双眼鏡とアーカイブのイメージのみで、事前に滑ることは禁じられています。「300メートル離れたところからいくら岩の大きさを眺めても、実際に10メートルに迫ったときにどうすべきかはわかりません。ある部分においてはとにかく確実でなければなりません。なぜなら、目の前の光景は、上からの眺めと何一つ一致しないからです。これがこのスポーツの非常に複雑なところです」。    

ランが始まる前に、テストスキーヤーがコース近辺を疾走し、これによってフリーライダーが雪の質を確認して、それぞれにふさわしいラインを見つけられるようにします。できる限り独創的で、しかしながら危険も少なく、それと同時に、十分勝てるラインです。それはもはや、一つの芸術とも言えるでしょう。 

斜面で

特に緊張感が増すのが、滑降(いわゆる「ラン」と言われるものですが) に挑む直前の瞬間です。感情のコントロールが重要で、とりわけ競技の際には、緊張感もリスクも最大となります。「死を考えることは僕にもあります。加速して、落ちて、事故になって、救急隊やヘリコプターが到着する。そして唐突に現実に戻ります。思いつく最悪を思い描くことで、立ち直り、滑り出すことができるのです」

フリーライドにつきものの震えは、こうした不安から来るものです。制御できない未知のものというのは常にあります。そして、すべての要素に耳を傾けることで、注意力を倍にしなければなりません。良い予感も悪い予感も、深刻に受け止めるべきです。なぜなら、奥底に大きすぎる恐怖心を抱えたまま、リラックスと集中を完全な状態で組み合わせることなどできないからです。たった一つのミスで死に至るということを分かっているのだからなおさらです。「不安を抱き、疑う瞬間こそ、生き伸びるという結果につながります。絶えず危険を意識し続けなければならないのです」

では、滑っている間はというと、フリーライダーは、純粋に、シンプルに、滑っているという喜びに浸っています。「僕が勝利したときのファイナルでは、まるで通いなれた初心者コースを滑っているような感覚でした。本当に集中していて、1メートルでも近く、できる限りコーナーを攻めたいと思っていました。すべてがシンプルに見え、気分はとても良かったんです。流れるように過ぎていき、すべてうまくいくという確信がありました」

ワデック・ゴラク、プロスキーヤー

精神状態

フリーライドを行うということは、何度も何度も、限界を押し広げるということです。「小さな頃から、僕は競争してきました。でもそれは、つねに自分との戦いで、いつももっと先へ行きたいと思っていました。そうした思いがなければ、僕は生きていくことはできないでしょう」。  

アスリートを取り巻く環境にとって、受け入れることが必ずしも容易ではない対応もあります。年齢とともに知識や経験から得ることができるというのは、物事のよい面だとワデックは考えています。数年前の撮影で、彼は両脚骨折という大事故にあいました。しかし、わずか2か月後、彼はスキーに戻り、それまで以上に謙虚に、決意をみなぎらせていました。

すべてのフリーライダーが夢見るのが、アラスカです。「あの壮大な傾斜は憧れです。雪質も申し分なく、遮るもののないフィールド。ごくシンプルに自分を表現し、スキーをし、今この瞬間、僕の前を行く人は誰もいないのです」

タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル200(WBP2111.BA0627) を着用したワデック・ゴラクが出演する新しいキャンペーンをご覧ください。