サヴォワールフェール タグ・ホイヤー オータヴィアで時を巻き戻す
誕生から60年を迎えた「タグ・ホイヤー オータヴィア」コレクションの進化を探る
TAG Heuer Autavia Chronometer Flyback (CBE511B.FC8279)
コックピットから着想を得たタイムピース「タグ・ホイヤー オータヴィア」こそが、「タグ・ホイヤー モナコ」「タグ・ホイヤー カレラ」に先立つタグ・ホイヤー「ビッグ3」の最初のモデルです。歴史に根ざし、自信に裏打ちされたそのずば抜けた機能によって、「タグ・ホイヤー オータヴィア」は、何十年にもわたり最も信頼できるツールとして世界中の冒険者たちから熱い支持を集め、読み取りやすいダイヤル、水密性に優れたコンプレッサーケース、初の自動巻クロノグラフムーブメントなどによって、常に時代の最先端を駆け抜けてきました。
2022年、このタイムピースが誕生から60周年を迎えるのを祝い、タグ・ホイヤーから特別仕様の「タグ・ホイヤー オータヴィア」が発売されます。最新エディションは、ケースデザインではオリジナルを踏襲しつつも、クロノプッシュボタン、特大リューズ、両方向回転式60分計付きベゼル、サファイア ケースバックなど、21世紀ならではの斬新な視点を取り入れています。
ただしここでは、この胸躍る新作をご紹介する前に、歴史を遡り、「タグ・ホイヤー オータヴィア」の起源にまつわるとっておきの物語をご紹介したいと思います。
時を超えた物語:クロノグラフ
クロノグラフとは、文字通りに訳すと「タイムライター」という意味になりますが、この装置の用途や機能を考えると、「タイムレコーダー」と言った方が正しいかもしれません。1911年に発表されたホイヤーの「タイム・オブ・トリップ」クロノグラフは、ラリードライバーやモーターレーサーのための高精度なダッシュボード用計時装置として、ホイヤーの名を一躍高めます。
ホイヤー一族の飛行機への高い関心から、自動車と飛行機の両方の計時装置を見直すことになり、そこから「Automotive(自動車) 」と「Aviation(飛行機) 」を組み合わせた「Autavia(オータヴィア) 」という名が生まれ、最終的に⅕秒の精度を持つダッシュボードタイマー「オータヴィア」が誕生したのです。
元々「オータヴィア」は、ホイヤー製のダッシュボード計器シリーズのひとつとして考案されたもので、8日間ムーブメントを搭載したクロック「Hervue」との組み合わせが一般的でした。ホイヤーの計器は、ラリードライバーは言うに及ばず、20世紀半ばになると、大学を卒業したばかりの若きジャック・ホイヤーを初め、モータースポーツを愛するあらゆる人々からチョイスされるようになります。
モータースポーツ狂、ジャック
若きジャック・ホイヤーは、家業のダッシュボード計器をアピールするため、カーラリーに参加し始めます。2度目のラリーでは、チームメイトとともにあと一歩で優勝というところまで行きながら、3位に終わりました。ジャックは、自分がダイヤルを読み間違えたがためのこの敗戦に激怒。彼は、ダッシュボードのストップウォッチ「オータヴィア」を「使いものにならないゴミ」とののしり、その製造を中止させてしまいます。製品ラインから撤退したため、この「オータヴィア」はもはや不要なものとなってしまいましたが、ジャックはこの名を気に入っていたため、なんとか改めて使いたいと思っていました。
彼が入社した当時、ホイヤーはまだストップウォッチのメーカーでしたが、ジャックには、腕時計のブランドとしても認めてもらうことが重要だと分かっていました。ホイヤー社の経営が厳しくなると、ジャックの叔父が売却を希望したため、ジャックは叔父の株を買い取ることを申し出ます。こうしてジャックは弱冠28歳という若さで会社を引き継いだのです。就任早々、彼は、会社に必要なのは腕につける新しいタイプのクロノグラフだと考えます。そんな彼の最優先事項が、「オータヴィア」をクロノグラフ腕時計として蘇らせることだったのです。
モダンな男性のためのモダンなクロノグラフ
ジャックが目指したのは、これまでとは全く異なるタイプの時計。それは、一目でそれとわかるデザインで、操縦するときの(自動車であろうと飛行機であろうと) 活気や興奮を表現し、最新テクノロジーを用いて便利な新機能を搭載し、もちろんどんな状況下でも簡単に正確に読み取れる時計、といったものでした。ダイヤルの読み取りやすさにとことんこだわり、イームズやル・コルビュジエといったデザイナーたちに憧れていたジャックは、モダンな男性のためのモダンなクロノグラフを発表することを目指します。その結果生まれたのが、ホイヤー社の歴史の中で最も重要なタイムピースの一つとなったのです。
1962年に発表された「オータヴィア」は、ブランドにとっての大きな出発点となり、20年にわたるデザインの進化をわずか数ヶ月に凝縮したものでした。この時計の自慢は、手巻ムーブメント「バルジュー 72」と回転ベゼル。ベゼルで測った直径は39mmで、当時としては大型の時計でした。12分割されたスタイリッシュなノッチ付きベゼルには、いつでも地球の裏側まで飛んで行けるようにとの思いから、第2タイムゾーン表示が採用されています。
大胆であり、モダンであり、スタイリッシュであり、確かに非常に読み取りやすい時計でした。初代「オータヴィア」のパンフレットでは「パイロット、スポーツマン、ダイバー、科学者のための新しいクロノグラフ『オータヴィア』」と謳われ、まさにミラクルウォッチとして紹介されていました。モダンな男性のためのモダンな時計として宣伝された「オータヴィア」は、スポーツカーを駆るように飛行機も華麗に操縦できる男性のためのツールといったイメージでした。
「オータヴィア」の発展
1962年1月、フロリダで開催されたセブリング12時間レースのフェラーリのピットで、ジャックが悟りを開きます。モーターレーシングの観客やファンは、「ホイヤーにとってごく自然にターゲットとなる顧客層」だと。彼が初めて伝説の「カレラ・パナメリカーナ」について耳にしたのもここセブリングでした。とりわけ、この出会いによって、ジャックは「カレラ」を将来の時計の名前として商標登録するに至ります。
さらにジャックは、ホイヤーが将来有望な若きスイス人レーシングドライバー、ジョー・シフェールのスポンサーになるという素晴らしいアイデアも思い付きます。シフェールは、ジャッキー・スチュワートやジャッキー・イクスといった百戦錬磨のドライバーたちからF1 イギリスGPの王座を奪って一躍有名になったレーサーです。彼はまた、ポルシェのドライバーとして、有名なル・マン24時間レースを初めとする耐久レースにも参戦しました。
「紳士の皆様、ホイヤーがお贈りする世界初の自動巻クロノグラフです!」
1969年には、「キャリバー 11 クロノマティック」が颯爽と登場し、ホイヤー社の業績は前年比34%増という驚異的な売上げを記録しました。自動巻「オータヴィア」は、身に着けるための時計であり、新しい時代の幕開けとともに、この時計を着用している人は、最先端の技術開発の仲間入りを果たした証となったのです。
自動巻きムーブメントの新しさ、醍醐味とは? 「オータヴィア」は、大ぶりの(42mm) トノー型またはC型のケースで読み取りやすいデザインが特徴でした。ムーブメントの構造上、巻き上げ用のリューズはケースの9時位置に配置されていました。この特異なリューズ位置は、メカニズムの卓越性を証明するものでもありました。リューズをケースの左側に配置することで、一度リューズを巻いてしまえば、手首の動きによってリューズを再度巻き上げる必要がほとんどなくなることが判明しました。そこで、この新作ウォッチでは、通常ダイヤルの右側に配置されるリューズを反対側にしたのです。
Heuer Autavia (1563MH)
ハイスピードの華やかな魅力
「オータヴィア」は、モーターレース全盛期の栄光の時代を彩った華やかさと切っても切れない関係にあります。実際、モーターレーシングは新生「オータヴィア」のプロモーションに最適な媒体となりました。ジョー・シフェールは、ドライバー兼セールスマンとして活躍した最初の人物であり、それによって彼自身も大いに成功を収めました。シフェールの他にも、「オータヴィア」を着用した有名なモータースポーツのパイロットには、デレク・ベル、ヨッヘン・リント、マリオ・アンドレッティ、クレイ・レガツォーニ、グラハム・ヒル(オータビア精神を体現する飛行機のパイロットでもありました) 、ジル・ヴィルヌーヴなどがいました。当時は、タバコを片手に、ハイオク仕様のスポーツカーを颯爽と乗りこなす華やかな時代でした。
オータヴィアを彩った色と形
現在、85種類以上の「オータヴィア」が存在し、色も形もサイズも様々です。1962年の登場時から1960年代半ばまで「オータヴィア」はブラック&ホワイト(またはホワイト&ブラック) の2色でした。1970年代に入ると「オータヴィア」は、モダンなC型ケースや、イエローやオレンジなどの弾ける色使いが特徴となり、この10年間のムードを反映していました。レッドは、1960年代後半のコンプレッサーケースにアクセントとして初めて使われ始めますが、1970年代には圧倒的な存在感を示し、モーターレーシングというテーマをはっきりと連想させる色として頻繁に登場しました。
Heuer Autavia 2446 "Rindt"
新しい終わりと新しい始まり
1985年にホイヤー社がテクニーク・ダバンギャルド社に買収されると、扱う時計のテイストも変化し、「オータヴィア」の頑強な汎用性が場違いに見えるようになっていきます。このため「オータヴィア」は、ゴールドに輝くダイヤルとレジスターのゴールドプレート バージョンを含む、4色展開の大型コーティングケースで、ちょっとしたブームを巻き起こした後、消えて行きました。
以来、2003年にその名を冠した時計が発売されるまで、「オータヴィア」は音信不通となっていました。確かに純粋主義者的な製品ではありませんでしたが、この時計は凛としていて、時計の起源とのつながりを持っていました。
2016年、高級時計の世界ではこれまでにない動きがありました。タグ・ホイヤーが、スイスの時計製造において世界初となる、コレクターやファンをベースにしたデザインを導入したからです。「オータヴィア カップ」として知られるこのプロセスは、「オータヴィア」という物語の新しい章を開くことになりました。これはまた、考案から設計まで全ての工程を一貫して自社で行い、組み立てはブランドのスイス・シュヴネにある工房が手掛ける新しいキャリバーを採用することで、TAG(Techniques d’avant garde) 時代のアヴァンギャルドな精神に敬意を表するものでもありました。当時新設された修復工房は、この新しい「オータヴィア」の章に不可欠な役割を担っていました。協力し合いながら進められるデザインプロセスを経て、総合的に満足できる時計が1つ蘇りました。それが「オータヴィア Ref. 2446 Mark 3」。1966年にデザインされたもので、F1チャンピオンとなったヨッヘン・リントを称え「リント」というニックネームがついていました。
2017年の「オータヴィア」モデルは、一部の人によると復刻ではなく、むしろモデルの家系図から新たに枝分かれした、その名にふさわしい完全に新しい「オータヴィア」と言われました。この新しいモデルは、ファンの間で人気のあった60年代の先代モデルよりも堂々としていました。サイズは42mmで(39mmではなく) 、12時間目盛付きベゼルを備え、独自のクロノグラフムーブメントである新キャリバー「ホイヤー02」が搭載されました。今の時代の要求に応えるため、80時間のパワーリザーブを実現した自動巻ムーブメントで、100mの防水性を誇ります。ダイヤルも読み取りやすく、バランスのとれた、そしてもちろんアヴァンギャルドなデザインに仕上がっていました。
そしてついに、2019年、フルコレクションとして「オータヴィア」が復活したのです。このタイムピースのオリジナルのデザインから着想を得た新コレクションは、優れたクオリティ、高い精度、タイムレスなスタイルが特徴。スポーティな「タグ・ホイヤー オータヴィア」コレクションには、COSC認定のキャリバー5を搭載した7つのモデルがあり、そのうちの5モデルには滑らかなステンレススティール、2モデルには高貴さを漂わせるブロンズが使用され、ストラップも多彩なオプションから選べるようになっています。
TAG Heuer Autavia Chronometer Flyback (CBE511C.FC8280)
現在
「タグ・ホイヤー オータヴィア」の60年にわたるレガシーを称える2022年エディションは、目の前に広がる舗装道路を自由に走り抜けることへの酔いしれるような想いに捧げるオマージュでもあります。「タグ・ホイヤー オータヴィア」の起源であるアイコニックなコードをベースにした新作は、この伝説のタイムピースのギアをさらに上げ加速させます。新しい機能、特大のリューズとクロノプッシュボタンを備えた大胆でコンテンポラリーなデザイン。今を生きる冒険者のためにダイヤルの読み取りやすさもアップデートされています。
夕日に向かって走り出す準備はいいですか?
TAG Heuer Autavia GMT (WBE511A.BA0650)
「タグ・ホイヤー オータヴィア」コレクションの詳細については、tagheuer.comをご覧下さい。