サヴォワールフェール スイスメイドのノウハウ 第2章:タグ・ホイヤーのウォッチケースができるまで

8分

メゾンを特徴づける並外れたサヴォワールフェールの数々を詳しく探るシリーズがスタートです。

© TAG Heuer

“メゾン タグ・ホイヤー” へようこそ。メゾンを特徴づける並外れたサヴォワールフェールの数々を詳しく探るシリーズがスタートです。このシリーズでは、驚異的な時計が生まれる工房の舞台裏をご紹介します。そこでは、最初のアイデアの発案から、完璧に組み立てられた時計の最終的な研磨まで、各工程が細心の注意を払って作業されています。時計製造の職人技についてはもうよくご存じかもしれませんが、スイスメイドのマジックをすでに熟知しているあなたをも唸らせる、臨場感あふれる詳細情報が詰まったこのシリーズをお読み頂き、あなたの知識をワンランクアップさせて下さい。第2章では、スイスのコルノルにある自社のウォッチケース マニュファクチュール「ケース・メーカーズ・エクストラオルディネール」で卓越のウォッチケースが製作される過程をご紹介します。

スイスのコルノルにあるケース マニュファクチュール © TAG Heuer

2009年、スイスのコルノルにあるケースメーカーが、ラグジュアリーメゾングループ LVMHの傘下に入ります。 このマニュファクチュールは現在、仕事の約90%をタグ・ホイヤーに集中させ、“その家に代々伝わっている” としばしば称されるほどの卓越したサヴォワールフェールを駆使してウォッチケースを製作し続けています。つまり、ここコルノルのマニュファクチュールで働く職人たちの多くは、自分の親が時計業界で働いている姿を見て育った、時計製造が血の中を流れる生粋の時計職人なのです。時には基本的な知識を既に身につけた新米のケースメーカーが、優れた時計を作るために必要とされる高度なスキルやテクニックを身につけるためのトレーニングプログラムを受けることもあります。

それでは、時計のケースが実際にどのように作られるのかを見ていくことにしましょう。基本的にこの工程は、プレス加工、機械加工、自動/手動研磨、組立の4段階で構成されます。 それぞれの段階で必要とされる卓越のサボワールフェールをご紹介します。

  • プレス加工の型 © TAG Heuer

プレス加工 © TAG Heuer

プレス加工

第一段階はプレス加工です。ケース製作は、高品質を保証するため、厳格な純度と強度の試験に合格した最高級の原材料のみを選ぶことから始まります。 様々な厚さのステンレススティールやチタンの板から、だいたいのメタルケースの形に切り出し、それをいくつものステップを経て変化させていきます。最も複雑なケースの場合、「原材料の棒」を「基本的な形」にするだけでも16もの作業が必要となり、ケースの製作は見た目ほど簡単なものではありません。 プレス加工では、それぞれのメタルディスクを70トンもの圧力で叩き、硬度、薄さ、弾力性を高めていきます。プレス加工後、ディスクは加熱され、次に冷却されます。この処理は「アニール」と呼ばれるもので、プレス加工の巨大な圧力によって一時的に「損傷」を受けたメタルを滑らかにし、きれいに仕上げます。

全ての工房に設置された専用の洗浄装置で、環境に優しい製品、石鹸、技術を用いてメタルを洗浄し、環境に悪影響を及ぼすことなく、メタルに残留する油分や不純物を除去します。この洗浄作業で発生した廃棄物は、リサイクルされ、タグ・ホイヤーでの活動の持続可能性をさらに高めています。 こうした機械的なプロセスが非常に特殊なものであるため、コルノルのケース マニュファクチュールでは、絶対的な精度を確保するために独自の工具さえも開発しています。従来の手段に加えて、3Dプリンターが活用され、それぞれの時計の製造に必要なツールの部品が製作されます。

機械加工 © TAG Heuer

機械加工

次の第二段階が 機械加工です。コルノルにあるケース マニュファクチュール独自の機械加工工房には、フライス盤、様々なタイプのメタルに特化した旋盤、必要な仕様を全て調べることができる3D品質管理チェックマシンなどが揃っています。こうした機械でスティールの円形棒を切断した後、残留した金属片を取り除く「研削」作業によって先端部を洗浄し、きれいに仕上げます。 製造工程を通しての品質チェックでは、60箇所もの寸法を正確に確認する必要があります。 チェックによっては一晩かけて行われるものもあり、朝には試験に合格した完璧なものだけが残されます。

自動旋盤は、熱と摩擦を減らすために一定の流量で潤滑油を流しながら作動させます。こうした機械は、1分間に最大2万回の回転数で回転させることができますが、このプロセスは、安全性と精度を確保するために正確に調整される必要があります。機械部品は、ここでもまたタグ・ホイヤー独自のデザインに合わせて自社製造され、品質管理チェックも全ての段階で行なわれ、各要素が最高水準を満たしていることを確認しています。

© TAG Heuer

研磨

研磨が次の段階ですが、ここは複数のそれぞれ独立した「ステップ」で構成されています。いくつかの表面を最初に研磨した後、カラーガイド、つまり「ラッカー」を塗りますが、これには2つの重要な目的があります。その1つ目が、事前に研磨した表面を保護し、職人たちがどの部分がまだ未処理であるか判断できるようにすることです。ラッカーはまた、機械による研磨の際のガイドとしても機能します。つまり、工程のどこで顔料が除去されたかを確認し、機械による研磨の「旅」を正確に追跡することができるわけです。最終的な表面を作り上げる前に3~5回の「準備」ステップを踏むことで、例えば、光沢や滑らかさを増したり、縦方向や横方向のサテン仕上げなど様々な筋状痕を入れたりすることができます。

  • 研磨の前に施されるラッカー © TAG Heuer

ストーン ポリッシング ホイールは、独自に砂粒を配合したもので、サンドペーパーのように様々なグレードがあります。それぞれに使用されるホイールの種類が、モデルごとに慎重にテストされ、できるだけ効率的に適切な表面に仕上げられることを確実なものとしています。ホイールはまた、それぞれのウォッチケース形状にぴったりフィットするようにも作られています。研磨用の「ベルト」は、最終的な研磨、特にサテン仕上げのようなストーンホイールだけよりも、高い精度が求められる場合に使用されます。

手動研磨 © TAG Heuer

手作業による研磨の準備段階で、表面が完璧に仕上げられます。ロボットアームは、時計ごとに特別に調整されたプログラムによって動作します。プログラミングには、新しいモデルの場合には3ヶ月を要し、同じシリーズのデザイン変更であれば2週間ほどで完了します。この段階の後、手作業での研磨に移行します。中間洗浄後にガイドカラーを塗り直し、ケースメーカーの厳しい目が光る中で、スクラブスポンジを使った手作業でのケースの研磨が再度行われます。最後の洗浄で、あらゆるゴミやフィラメントを除去し(これを最後に) てから、組立工程に移ります。

組立と品質管理 © TAG Heuer

組立

最後にいよいよ組立工程が始まります。 この工程を担当する職人は極めて高いスキルを有し、中には何十年もの経験を積んだ強者もいます。極小部品への信じられないほどに細かい作業にもかかわらず、工房の至る所で彼らの手が素早く確実に動いているのが見て取れ、まさに目が釘付けになります。リューズチューブを取り付けるのに使われる特殊な接着剤で始まり、こうした部品を密封するための加熱手順に進みます。

次に、特別に設計された手持ちツールを使って、安定した動きでプッシュボタンを追加します。

組立工房で働く人たちは、それぞれが異なるスキルを持っており、多くの人が仕事の量に応じて複数の作業をこなすことができます。 例えば、プッシュボタンを取り付ける作業者が、クリスタルの風防やケースバックの取り付けもできたりします。 ケースバックを付けてケースを閉じる際には、一点の汚れが残っていることも許されないので、絶対的なきれいさを確保することが欠かせません。目に見えない粒子さえも圧縮空気で吹き飛ばし、服や靴に加工屑が付いてそれがケースに落ちないよう作業は専用の防護服を着用して行われます。

最後に、防水性試験、圧力試験を行い、ウォッチケースに出来る可能性のある全ての隙間の最終確認を行います。 わずかな湿度でも時計の最終的な機能に支障をきたす可能性があり、ケースは風雨などから時計を守る究極の防御手段なのですから。加熱板を使って結露試験を行い、絶対的なプロテクションが保証されるようにしています。