時計 Only Watch 2021:2年に1度開催される筋ジストロフィー研究支援を目的とした高級時計のオークション

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ロビン・スウィズンバンク ロビン・スウィズンバンクはジャーナリストであり、ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ、GQ、Hodinkeeなどに定期的に寄稿している。

時計メーカーは、なぜビスポークな時計をもっと提案しないのかとよく問い合わせを受けるそうだ。パーソナライゼーションは、常にラグジュアリーのバスワードになっているが、自分の好きなようにできないのであれば、ラグジュアリーとは何なのだろうか、ということになる。

時計メーカーは、なぜビスポークな時計をもっと提案しないのかとよく問い合わせを受けるそうだ。パーソナライゼーションは、常にラグジュアリーのバスワードになっているが、自分の好きなようにできないのであれば、ラグジュアリーとは何なのだろうか、ということになる。

だが、スーツや旅行と違って、時計はそう簡単に自分の思い通りになるものではない。ジャケットに1つポケットを増やしたからと言って、その精度をチェックする必要はないし、プライベートビーチを予約したからと言って、そのビーチが衝撃耐性や防水性などの厳しいテストに合格する必要もない。

でもだからと言って、時計のパーソナライズができないと言っている訳ではない。 それを証明するのが、2年に1度開催される Only Watch オークションだ。モナコ ヨットショーのオーガナイザーであったリュック・ペタヴィーノ氏によって設立された Only Watch は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの研究のための資金調達を目的として、時計メーカーから一点物の時計をオークションに出すことを募っている。

その結果、2005年の第1回開催以来、数々の魅惑の時計が生み出されてきた。前回2019年の Only Watch では、唯一無二のパテック・フィリップの時計が世界記録となる3,100万スイスフラン(約37億円) で落札された。これまで8回の開催で、Only Watch は7,000万ユーロ (約92億円) を超える収益を上げており、その99%が筋ジストロフィーの研究に当てられていると言う。素晴らしい話だ。

タグ・ホイヤーもその一翼を担っている。中でも2011年に出品された1/100秒まで計測できる「モナコ マイクログラフ」や、2017年の「タグ・ホイヤー ラグジュアリー キット “Only Watch” スペシャル エディション」が思い浮かぶが、どちらも極めて複雑で、タグ・ホイヤーのビジョンを明確にするのに役立つ1点物だった。

だが今年のタグ・ホイヤーの出品時計は、まったく別の提案をしている。その「タグ・ホイヤー “Only Watch” カーボン モナコ」は、老舗時計メーカーがこれまでに構想したものの中でも最も野心的な時計の一つに数えられる。

そのストーリーは、フィルムノワール風の外観から始まる。ケース、ダイヤル、ブレスレットのすべてがブラックで統一され、コレクターの間で「ダークロード」とシンプルに呼ばれている、1970年代半ばに短期間であったため、当然のことながらごく少量しか製造されなかった「モナコ」にブラックコーティングを施したモデルを彷彿とさせる、暗く不気味な雰囲気を荘厳なまでに醸し出している。

だが、今回の Only Watch に出品された「カーボン モナコ」のストーリのポイントはケースにある。ケースはカーボン製だが、タグ・ホイヤーの愛好家ならお分かりのように、別に初めてのことではない。初の栄冠は2018年の「モナコ バンフォード」に贈られている。だがこのケースはひと味違っていて、「モナコ」に装着されたこれまでで最も大きなサファイア ケースバックを保持し、より今の時代にふさわしいものとなった特別なムーブメントを見せるようデザインされている。

ビスポーク ダイヤルもカーボン製で、タグ・ホイヤーのパートナーであるArteCad社によってスケルトン化された。タグ・ホイヤーが誕生した工業時代のスティール製建築物や、オープンホイール レーシングカーの支柱を想起させる、進化した、たくましい美しさは、タグ・ホイヤーが他のどの時計メーカーよりもよく知っている世界を象徴している。また、伝統的な時計製造技術であるアングラージュ(面取り) を用いて、一つひとつのファセットを手作業で仕上げることで、ダイヤルの多次元的な外観の奥行きが深まっている。

そしてストーリーはさらに時計のムーブメントへと語り継がれる。通常、キャリバーはダイヤルに隠れて見えないが、このモデルでは一部が見えるようになっている。だから、ビスポークのストーリーを永続させ、卓越したディテールへの基準を満たすため、仕上げは手作業で行われている。だがそれも氷山の一角に過ぎない。

例えば、キャリバーは、タグホイヤーの80時間パワーリザーブを備えた自社製自動巻クロノグラフムーブメントの「ホイヤー02」。だが、これも通常のホイヤー02ではない。技術的には、タグ・ホイヤーのカーボン製ヒゲゼンマイにアップグレードされることで、革新的な部品を採用した最初の、そしてこれまでのところ唯一の「ホイヤー02」つまり「モナコ」となっている。タグ・ホイヤーの研究所が開発したこの技術は、クロノメーターの精度を向上させるとともに、機械式時計の性能を低下させる衝撃、磁気、温度変化に対する優れた耐性を実現していると言う。

また、装飾技術を専門とするArtime SA社との提携により、全く新しい方法でムーブメントに手仕上げが施されていることもストーリーでは語られる。実際、ムーブメントには、10種類の仕上げが施されており、大部分を占めるチェッカーフラッグのモチーフは、“グラッテ”と呼ばれる技法で施されている。これ以外の仕上げが、アングラージュ、ブラックポリッシュ、サーキュラーグレイン、ストレートグレイン、ペルラージュ、スネイリング、サンドブラスト、シェブロン エングレービング、サンバーストである。この時計は、おそらく、これまでのタグ・ホイヤーのどのモデルよりも、この高級時計ブランドにふさわしいものだと思う。

その唯一無二のストーリーはストラップにも続いている。一見しただけでは、メタル製のように見えるが、実はレザーにシリコンを注入してブレスレットの形に成形したもの。タグ・ホイヤーによると、この技術はこれまでに使用されたことがないとのことで、まさにアヴァンギャルドなストラップと言える。

そして、カラーのディティールも。今年の Only Watch のパレットは、サンバーントオレンジからイエローへのグラデーション。このパレットは、針や夜光塗料に採用されているだけでなく、ローターも彩り、マイクロペインターとして名を馳せるアンドレ・マルティネス氏が手描きしたオレンジからイエローへの細いラインが入っている。私も実物を見たことはないが、回転すると目が回るような回転花火のように見えるのではないかと想像している。

つまりこの時計は、タグ・ホイヤーの時計デザインやムーブメント製作に対するアヴァンギャルドなアプローチに、高級時計製造の伝統とを融合させ、1つのパッケージの中にサヴォワールフェールと革新的な精神とを合体させた、とてつもなく印象的な時計なのだ。言ってみれば、1回限りのビスポーク パッケージ。そう、つまり、時計だってビスポークは可能だと言うことだ。

 

Only Watch 2021 オークションは、モナコ公国アルベール2世の後援を受け、11月6日にジュネーブで開催される。

ロビン・スウィズンバンク ロビン・スウィズンバンクはジャーナリストであり、ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ、GQ、Hodinkeeなどに定期的に寄稿している。