サヴォワールフェール Collected, Vol. 1、パート2
15分
エリック・ウィンドとニック・ビーブイック、2人のタグ・ホイヤーのコレクターへのインタビュー。今回はパート2です。
パート1をご覧になっていない方は、イントロダクション、時計入手の逸話、他とは一線を画すニッチなアイテムの話を是非ご覧ください。
TH:あなたにとって、時計の価値を生み出すものは何ですか? 内部のムーブメント? 希少性?時計の状態?それともその時計がもつ歴史でしょうか? もちろん、これらは全て重要だと思いますが、あなたにとって一番大切なのはどれですか?
エリック(E):まず、時計の状態とオリジナリティですね。時計がオリジナルで、本物であることはとても重要です。例えば、私はポリッシュされていないケースに目がないんです。手が加えられていないケースのもつ、シンプルでシャープなラインは最高です。
N(ニック):私も、エリックとほぼ同意見です。時計の状態は購入する際の最も重要な部分です。その時計が、平均的な状態なのか、とても良い状態なのかで、全く異なります。それによってその時計への思い入れが変わるのです。真に優れた、修復を経ていない時計を見つけることは、本当に難しい。
E:それから、当然ながら誰が所有していたのかも重要です。所有していた人物に関する逸話や気の利いた背景があれば更に良いですね。F1の優勝者が所有していたウォッチ、とかね。
ヨット・タイマー Ref 33.512、エリックのプライベートコレクション
TH :それは確かに良いですね。コレクターの世界にすっかり浸っているお2人に、簡単な質問を1つ。コレクターの世界での競争は健全だと思いますか? それとも、嫉妬や妬みなどの要素も絡んでくるのでしょうか? 「あのモデルをあいつが手に入れるなんて!」と言ったような。
N:まさか! 私の経験上は、そこまでひどく感情的になることはないですね。自分が所有するかどうかはごくごく瑣末なことだと思っています。コレクターを見ていると、それぞれが異なる楽しみ方をしているということがわかる。獲物を狩るようなスリルを楽しむ人、調査や理解を深めることを楽しむ人、他のコレクターと出会うコミュニティとしての側面を楽しんでいる人。一部には、投機としての時計取引を行っている人がいるのも事実です。時計を所有すること、素晴らしい時計を身に着けることをシンプルに楽しんでいる人も多い。しかし、ある意味で、コレクションすることは、他の何より人と人を結びつけるものだと思います。時計を手に入れらなかったことに少し不満を感じることはあるかもしれませんが、その時計が大切に扱われ、記録され、保存されるのならば、所有者が誰であっても構わないのです。
TH:管理人や世話人のような感覚ですね。
E:その通り。実際、人々を結びつけるという点では、ホイヤーのコレクターコミュニティはとても暖かで、フレンドリーなのです。2013年に妻を伴ってあるホイヤーのコレクターの会合に出かけたときのこと。妻にとってはそれが時計の世界に触れる初めての経験だったのですが、その時のことは今でも楽しい思い出です。今まで、彼女は私に付き合って数えきれないほどのコレクターのコミュニティに参加してきました。でも、いまだにホイヤーのコレクターのコミュニティが一番だと言っていますよ。
TH:それを聞いて嬉しいです。これを読んでいるコレクター志望の方に、何から始めればいいかアドバイスを。単なる時計の所有者からコレクターになるのはどの時点からなのでしょうか?
N:複数の時計を所有していれば、本人がそう思おうが思うまいが、もうコレクターだと思います。もしかして、もっと深い知識をもったコレクターということかな? それなら、細かな時計のディテールに関するフォーラムの投稿を読んでいて、ふと時計に目を落とすと午前2時になっていたり、まるで普通のことのように、数百ポンドの本を地球の裏側から取り寄せるようになったりした時ですかね。そうなっていたら、既にコレクターの世界にはまり込んでいる状態だ。
オータヴィア 1163、ニックのプライベートコレクション
TH:納得しました。
E:そうですね。自分の時計との違いについて調べたり、次に入手する時計を考えて調べ上げたり、時計について熱心に研究し始めたら、コレクターなんだと思います。あまり考えずに時計を買うのではなく、研究する、という行為が鍵ですね。
TH:時計の収集家を目指す人が心に留めておくべき点ですね。最初の時計を入手する前に、それを十分研究すること。
E:自分が何が好きか、何に惹かれるか、はっきりさせておくことも大事です。私はいつも、焦らずゆっくり進めることをお勧めしています。
N:同感だ。時計を収集していると、間違いを犯すこともあります。問題は、その間違いがどのくらいの損失を生むか。数百ユーロだったら、大した間違いではありません。でも、友達が数十万ユーロの間違いを犯していたと考えるとどうですか? だから、まずはゆっくり進めることが大切なのです。
TH:お2人ともお子さんがいらっしゃいますが、時計に対する情熱が次の世代にどのように受け継がれるかを意識していますか?
N:うちの2歳の子供はすでに、オークションのカタログをフリックして、どれが好きでどれが嫌いか指さして教えてくれます。私たちが住んでいる香港にはあちこちに時計店があるんですが、息子は時計店を見かけるたびに立ち止まっては指さすんです。その内、ブランドのロゴまで覚えてしまった。もちろん、親の影響があってこそですが。でも、私が机でリファレンスナンバーを暗記させているとか、コンプリケーションの違いを説明させているという訳ではないのです。
ニックのブラックバード ウォッチ マニュアル Vol.1
TH:さて、フリートークの時間です。
N:(笑) でも、時計というのは本当におもしろいと思いますよ。この冷たい金属の塊でできた機械仕掛けの物体で、情熱の共有やコミュニケーションが生まれる。
E :うちの息子のチャーリーも大好きなんですよ。一緒に時計の本を見ていると、好きなモデルとそうでないモデルを指さして教えてくれるんです。楽しいですよ。お気に入りは派手なモデル。ゴールドのブレスレットとかダイヤモンドとか。
TH:チャーリーは何歳ですか?
E:6歳です。いつもゴールドの時計を欲しがるんです。ゴールドのブレスレット付きの、ね。私の好みとは似ても似つかないんですから、面白いですよね。でも、息子の好みを尊重しますよ。娘のレナはもっと嵌まっていますね。チャーリーよりも時計好きになるんじゃないかと思います。誇りを持って時計を身に着けているんです。チャーリーは時計を着けても、手首の周りに何かあるのが嫌で10分くらいですぐに外してしまう。
TH:ゴールドのモデルでない限り。
E:そうです。しかし、レナは何時間でも時計を身に着けていますし、それを誇らしげに見せてくれます。それは本当に、本当に可愛らしいです。
TH: 彼らが時計に強い関心を持つ10代になった場合、将来の可能性を開くためにどのようなテキストを勧めますか? 時計ビギナーのためのバイブルはありますか?
N:イギリスの専門家アレックス・バーターの『The Watch』がまとまっていて良いと思います。それから、ステファン・コーポランとジーン・ストーンの『The Watch』もありますね。
E:ホイヤーがメインなら、ジャック・ホイヤーの『The Times of My Life』が好きです。しかし、概して優れた本とは一体どういうものでしょうか? 私が以前述べたように、まず自分が何に興味があるか明白にすべきです。それに、既存のどのブランドやモデルにも良いところはあります。
アレクサンダー・バーターの『The Watch』
TH:秘密にしておきたいかもしれませんが教えてください。現在、どのくらいの数の時計を所有していますか?
N:私は、20歳を超えたらもう数える意味がないと思っているタイプなんです。私は時計を16個までに絞ることを考えていますが、いずれ実現するにせよ、まだそこまで至っていません。
TH:どのような順番で身に着けているのですか? それらの時計を旅行に持っていくことはありますか? 身に着けたことがない時計はありますか?
E:私は基本的に、コレクションしてる時計は身に着けるべきだと思っています。そうできない場合、その時計は売りに出すべきだと思います。それが私にとって重要なポイントです。金庫に入れたままにすることはありません。私は着用するのがためらわれる新古品の時計を1つ持っていました。私はこう言いました、注意して身に着け、楽しみたいと。年に数回だけですが! でも、身に着けていない時計を見るとイライラしていたので、そうしてみると気持ちが楽になりました。
TH:そのような時計を身に着けた時、腕元に聖域のようなものがあるのを感じますか?
E:そうですね、だから私は特に気を付けていると思います。そのような時計を身に着けている時は、誰でも長袖を選ぶと思いますよ。あなたはどうですか、ニック?
N:そうだね、私は時計は身に着けるもの、車は運転するものとなるように作られていると固く信じています。なので、身に着けないのであれば持っていても意味がないと思います。幸いなことに、私はこの考えを私が定期的に一緒に仕事をしている多くのコレクターにも持ってもらうことができました。少しの間しか時計を身に着けないのは本末転倒です。実際に時計をずっと身に着けていることと、1時間あまりしか身に着けていないのは全く違うことですから。数時間だけそれを身に着けた場合の印象と、数日または数週間身に着けたときの印象は全く違うものとなります。その時計に対する感情が全く変わるのです。
TH:2時間と2週間の違いは本当に興味深いです。その時計が感情的な生活の一部になるのですか、それとも単に日常生活の一部になるのですか? その経験の違いがそれほど大きいのはなぜでしょうか?
N:エリックが言っていた新古品の時計と同じことです。最初は身に着ける時計にとても気を遣うでしょう。腕を広げるとき、ドア通り抜けるとき、その気遣いが影響します。袖を下ろしたままにしておくとか。数日経つと、時計を着けている部分と自分の身体の関係がわかり始めます。新しい車を運転するようなものです。新しい車を運転するとき、駐車するのが難しかったり、どのくらいの大きさか把握できていなかったりするでしょう。同じことが時計にも起こる。最初は境界線を感じることができない。でもその内にわかるようになります。そうすると、時計を身に着けていてもあまり気を遣うことなく済むようになるんです。
カレラ 1153、ニックのプライベートコレクション
TH:つまり、扱いにくかった新しい手足が完全に身体の一部になっていくということですね。
N:その通り。自分の一部のように感じるまでにそう長くはかかりませんが、乗り越えるべき最初の壁はありますね。その過程で、時計に引っかき傷を作ってしまうことだってよくあるでしょう。机の端などにぶつけてしまうかもしれない。でも、一度ぶつければあとは慣れるので、もう大丈夫。壁を乗り越えたことになります。
TH: 今や一体化していると。
N:そうです。時計も、身に着ける者も、傷を負うのです。経済的に、そして、外観に。それでいいのです。
TH:誰かのために手に入れた時計で、実際に手放すことができなかったものはありますか?
E:もともと私が購入する全ての時計は、ある程度の期間は私が所有したいと思っているんです。妻のクリスティーンは、いつも「ロマンスに浸っているのね」と冗談を言います。
N:他人との競争を楽しむことができるのですから、ラッキーだと思いますね。追いかけることのゾクゾク感はたまらないですから。リサーチしたり、勉強したりしながら。市場を分析したり、特定のリファレンスや特定の分野で活躍している重要なプレーヤーと知り合ったり。ドライバーの家系を辿ったりもします。ありがたいことに、私を信頼し、助けてくれる友人に恵まれているんです。そうでないと、ペースを維持するのが難しい。
TH:そのような活動の中で、犯罪の解決につながるような探偵としての技術が身についたと思いますか? 冗談です。ですが、探偵の仕事と近いものがありますよね!
N:そうですね、ゲッティイメージズのアーカイブから、時計を見つけたり、所有者の系譜を確認したりしますよ。取り付けられているベゼルのバージョンやダイヤルを特定することさえできるんです。こうして発見が得られると、とても嬉しい。
E:本当に。犯罪解決につなげられるかわからないけれど、とても面白いですよね。パズルを解いていくことで発見があるのです。少なくとも年に数回は、素晴らしい時計を入手して、届くのが待ちきれず眠れない夜が2、3度あります。FedExで荷物の追跡をして、いつ届くか確認して。届く前にはひたすら研究します。そうしているときは最高に幸せ。
TH:新しい時計と言えば、次の狙いは? 今、ご自分のコレクションに加えるアイテムを探していますか?
E:いつでも狩猟モードですよ。ディーラーとしても、コレクターとしても。常に次の時計のことを考えています。
TH:このインタビューとしては、お2人が同じ時計を同時に探していることになれば最高に面白いのですが…。
N:2人で世界中を舞台にインディ・ジョーンズみたいに競争する? 可能性はあるね。2人ともまだマーケットに出ていないマックイーン 1133Bを探しているんです。準備はいいかい?エリック
競争の楽しさと、希少で洗練された宝物のような時計を見つけるための専門知識をたっぷり披露してくれた、2人の時計愛好家。 ハンターであり、探偵であり、そしてロマンを追い求める探検家であるコレクターたち。帽子を脱いで(ただし時計は着けて) 、コレクターたちに賛辞を!