ストーリー タイムキーパーズ: フランソワ・デュポン 潜水艦乗組員

10分

このインタビューシリーズでは、時間というものが極めて重要な役割を果たす立場にいらっしゃる、様々な分野のタイムキーパー方たちが登場します。今回のゲストは、実生活の中でミリ秒がいかに重要であるかを知っている人物をご紹介します。 そして、シェフからパイロット、外科医やDJまで、テーマに関して実に魅力的なトークを展開して下さいます。私たちが知っている時間というものを、トップクラスの人たちがどのように守り、曲げ、旅しているかを発見して下さい。

フランソワ・デュポン

潜水艦乗組員(で哲学者?) のフランソワ・デュポン氏が、海の中で過ごすことをどのように感じているのか、そしてなぜ船乗りにとってコンマ1秒がそれほど重要なのかについて語ります。

 

簡単に自己紹介していただけますか?

フランソワ・デュポンと言います。海軍士官となって40年になります。ほとんどが潜水艦乗組員としての勤務です。今はもう船上、特に潜水艦の中であれこれ文句を言うような年齢ではおそらくなくなってきているのではないでしょうか! しかし、私の長いキャリアはとても魅力に満ちたものでした。

実際、1980年代の海軍学校を出て最初のプロジェクトは、かなり普通とは違ったものでした。私は、フランスの潜水艦の新クラス「トリオファント級」を作るデザインチームの一員でした。やがて私は、その乗組員に選ばれ、初代司令官に任命されました。訓練を終えてシェルブールに到着した時、潜水艦はまだバラバラでしたが、シェーンブールを出る時には、最大深度まで潜ったのです。これは私の人生の中でも格別の時間で、決して忘れません。

最初に船に乗られた時の思い出は? 海の味を満喫したのはいつのことでしたか?

私は両親がモロッコに住んでいた時に出かけた子供の頃の旅行のことを実に鮮やかに覚えています。私たちは夏休みに定期的にフランスに来ていました。カサブランカから船に乗ってマルセイユへ。長旅ではありませんでしたが、大きな幸せを感じました。エンジンの音、換気扇のブーンという機械音は、私を安全な心地良いコクーンの中にいるような気分にしてくれました。そして、ブリッジに出ると、そこには無限の地平線があり、自分たちがいかに小さな存在であるかを示してくれていました。今でも海を見ると、その時の想いが蘇ります。

 

私たちを潜水艦に乗せてもらうことはできませんか? 少なくとも、艦内の生活について教えてもらえますか?

1980年代に私が建造を手伝い、指揮を執ることになったトリオファント号は、重さ14,000トン、全長138メートル、直径12.50メートルの潜水艦です。水深300m以上の深さまで潜ることができますが、最大の深さは極秘扱いです。艦内のスペースはかなり狭いです。111名が300平方メートルの中にいるのですから、決して広くありません。

何よりも、極めて複雑な技術のマシンであり、非常に多くの計器が搭載されています。地球上で最も複雑な技術装置と言われているほどです。  分厚い外郭に閉じ込められてはいても、やることが多すぎて閉塞感を感じる暇もありません。確認しなければならない計器は膨大な数に上ります。生活は厳しく統制されています。

潜水艦に乗っている時はどんな気分ですか?

まず、パトロールが70日間続きます。これはほぼ一つの季節分の長さ、つまり非常に長い時間です。ですので本当の意味での個人の規律が求められます。生活はシフト制になっていて、1日を2時間、3時間、4時間単位で区切ります。それぞれの時間に特定のチームが担当に割り当てられます。ですので、艦が常に移動している間、こうしたシフトが昼も夜も生活を区切るのです。

1日は24時間。この事実から逃れることはできません。ただし、昼と夜の区別をつけるために、艦内の照明を変えています。昼間は黄白色の暖かな光で通路を照らし、夜になると赤の光に変えて違いを明確にします。これによってより自然に時間の流れに従うことができるようになります。

指揮を執っている際には、艦内の”天候” を考慮に入れなければならないのです。艦内の雰囲気は、外の状況と同じくらい影響力があります。クリスマスやお正月を海上で過ごす場合はもちろん、乗組員の気持ちが他のところにある可能性が高いので、より一層警戒しなければなりません。

 

艦内ではどのように計時なさるのですか?

船乗りにとって時間は重要な要素です。時間が分からないと、星や天気に関する超人的な知識を持っていない限り、実際の自分の場所を知ることはできません。ですので、ある緯度と経度の地点を取って、方向と速度に応じて別の地点に移動するわけです。自分がその時どこにいるのかを知るためには、絶対的な精度で時間を知る必要があります。この航海法の起源は何百年も前に遡ります。

タイムキーパーと呼ばれるものも搭載しています。これはおそらく、あらゆる技術の中で最も重要な技術ではないかと思います。なぜなら時間がドリフトし始めたら、自分がどこにいるのか分からなくなってしまいますから! そして、その時間は司令官室をはじめ、至る所に表示されています。夜中に目が覚めても、最初に目にするのは艦の深度、そしてその次が時刻です。

« 時間は重要な要素です。時間が分からないと、星や天気に関する超人的な知識を持っていない限り、実際の自分の場所を知ることはできません。 »

フランソワ・デュポン氏 潜水艦乗組員

その”タイムキーパー” とは、どのようなものなのでしょうか?

ある時点では、振り子でした。信じられないほど精密なクロノメーターで艦内の決して動かすことができない場所にありました。そして毎日、スピーキングクロック、ユニバーサルクロック、クロノグラフと時差を測定し、リセットしていました。このようにして長年行われてきましたが、現在ではほとんどドリフトのない極めて精密なクロックが登場しています。潜水艦には”慣性ユニット” があります。これは非常に高精度なクロックを搭載し、技術的なツールと連動させることで、速度と方向の両方を知ることができるようになっています。

この時間の概念は、船乗りの哲学とほとんど同じです。5時間や6時間も続く飛行機の旅や100mレースで使うような時間と同じ種類のものではありません。日、週、月と連続してドリフトさせることができないので、より厳密な種類の時間になります。

 

潜水艦は高速で航行しているのですか? 

平均ペースは時速10~15km程度しかありませんが、潜水艦は決して動きを止めることはありません。私たちは主に放射ノイズと呼ばれる、潜水艦が発するノイズに性能を求めていますが、それはこれによって敵に発見されてしまうからです。ですので、優秀な潜水艦とは速さよりも、静かであること。たとえ、高速で航行できるとしてもです。

潜水艦では、音は視界よりも重要です。それは、一定の深さを超えると、どの方向を見てもほとんど何も見えなくなるからです。周りの環境を検知する唯一の方法は、かなり遠くの音を検知できるハイドロフォンしかありません。潜水艦の中で学ぶのは、見ることではなく聞くことです。興味深いのは、これが艦内の人々の行動にも影響を与えているということです。潜水艦乗組員は本当に話を聞いてくれる人たちなのです。今は逆のことをしていてもね(笑)

 

今はどのように時間と関わりあっていらっしゃいますか?

今、私が驚いているのは、すべてのものが非常に速く、おそらく速すぎるほどに動いているということです。最終的に、今起きていることによって、誰もが大局的に物事を見ることが求められていて、それに疑いの余地はありません。普通の生活にいつ戻るのか、果たして戻れるのか、どんな生活になるのか、私たちには分かりません。あなた方の世代は、極めて異なる新しい生き方を発明することでしょう… どの道が開かれるのか、とても興味があります。  私たちは、誰にも考えたり、時間をかけたりさせない人生に巻き込まれていることに気付いています。おそらくそれも変わるでしょう。

 

タイムトラベルできるとしたら、どこに行きたいですか?

マゼランやクリストファー・コロンブスの時代に自分が生きていたいとは必ずしも望みません。でも、未来に向かう旅にはとてもワクワクします。今こそ、自分たちが気付いている複雑さから抜け出す方法を探ってみる時だと思います。ですから今ここにいることに興味を持っています。たとえそれが時には恐ろしく思えるとしてもです。

興味があることは、海を見ているときに感じるこのエンドレスで、無限の時間感覚。とても安心感があります。潮の満ち引き。世界の他の場所で何が起ころうと、海は上昇し、ピークに達し、そして下降し、外に出て、また始まることが分かっています。そこにはある種の永続性があり、それが私を大いに安心させてくれるのです。