サヴォワールフェール サファイアクリスタルとは?

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タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ, レファレンスCBS2216.BA0041

初めにガラスありき

時計職人がガラス製の保護材を使い始めるようになったのは17世紀初頭のこと。これはロッククリスタルクォーツという素材でできたもので、金属製のケースに収められ、開閉式の蓋が付き、時間を確認するにはこれを開ける必要があったという、それまでのダイヤル構造から大きく進歩したものでした。しかし、このガラスは常にぴったりとフィットしていたわけではなく、平坦にされたクォーツの最初の保護層は非常に壊れやすく、ひび割れやすいものでした。

プラスチックの時代

1862年にイギリス人のアレクサンダー・パークスが世界初の半合成プラスチックを発明したことにより、1907年、人類史上初の完全合成プラスチックの製造への道が拓かれます。1907年にベルギー人化学者のレオ・ベークランドが合成に成功し、このプラスチックを「ベークライト」と名付けました。その後、1932年にはイギリスのインペリアル・ケミカル・インダストリーズが開発した「パースペックス」が登場。このプラスチックは、瞬く間に私たちが日常生活で使用する数多くの製品を作るための原材料となり、今に至ります。

合成プラスチック/アクリル/プレキシガラス/ルーサイトは柔軟性があり、軽量で耐久性が高く、割れにくく、比較的安価に製造できるため、長年にわたり、特にツールウォッチ用のダイヤルの保護シールド材料の標準となってきました。しかし、小さな傷なら研磨で取り除くことができるものの、このプラスチックは他の表面よりも傷がつきやすい傾向がありました。1812年にドイツの地質学者・鉱物学者であるフリードリッヒ・モースが考案したモース硬度スケールでは、鉱物の相対的な耐傷性が1から10までの数値で表されますが、プラスチックはわずか3と評価されています(ちなみにこのスケールではタルクが1、ダイヤモンドが10となっています)。このため、より頑丈で傷のつきにくい新しい素材を見つけなければなりませんでした。

次のステップ:ミネラルガラス

この後に登場したミネラルガラス/ シリカは、現在でもミドルレンジの時計で一般的に使われています。プラスチックやアクリルクリスタルよりも高価ですが、はるかに傷がつきにくいミネラルガラスは、二酸化ケイ素を炭酸ナトリウムと加熱融解することで得られるケイ酸ナトリウムを溶かしてできたガラスです。

ナトリウム含有量が高いことから、光学用途、工業用途、電子機器用途に最適な透明性、高光沢、耐薬品性、温度安定性といった化学的・物理的特性を備えたガラスになります。時計製造においては、通常、ガラスの表面を高温に加熱して強化処理を施した「強化ミネラルガラス」が使用されます。この処理により、耐傷性が高まり、割れや破損が生じにくいという特性が得られます。ただし、傷がついたり、欠けが生じたりした場合、アクリルとは異なり、研磨で修繕することはできず、交換しなければなりません。

そして現在、サファイアクリスタル

サファイアは、コランダムという鉱物から得られる2つの貴石のうちの1つで、もう1つがルビーです。コランダムは地球上で3番目に硬い鉱物です。結晶化した酸化アルミニウムでできており、本来は透明なこの貴石の青や赤の色は、他の鉱物の微量元素によるものです。最も重要なのは、このミネラルガラスがモース硬度9という非常に高い硬度を持つため、傷をつけることができるのは、硬度10のダイヤモンドと9.5のモアサナイトしかないという点です。

1902年、フランス人化学者のオーギュスト・ベルヌーイは、シード結晶上にゆっくりと沈殿させた天然石内の酸化アルミニウム粉末を炎で溶かすことにより、合成サファイアと合成ルビーを製造する工程を開発します。1930年代に入ると、コーニング・ガラス・ワークスがこれを改良し、現在でも使用されているより大きく、より高品質なクリスタルが製造されるようになります。合成ルビーは、天然ルビーよりも低いコストで製造できることから、瞬く間に時計メーカーが時計のムーブメントに採用するようになりましたが、サファイアクリスタルは、時計のダイヤルを保護する用途ではほとんど使用されず、主により高い強度と保護性能が求められる工具やダイバーズウォッチに使用されていたに過ぎませんでした。サファイアクリスタルが、プラスチックやガラスの保護材の改良版として広く認知され、ハイエンドの時計に採用され始めるようになったのは1970年代に入ってからのことです。

従来のプラスチックよりも製造コストが高く、加熱すると丸い塊になる合成サファイアは、ダイヤモンドをコーティングした鋸でスライスし、その後、ディスクを研削・研磨して時計の風防に仕上げます。

高い耐性に加え、フラットな形状やドーム型など、様々な形にすることができるサファイアクリスタルの平均的な厚さは1.0~1.5mmですが、頑丈な工具や深海用のダイバーズウォッチでは5mm以上の厚さのものもあります。ミネラルガラスよりも反射率の高いサファイアクリスタルには、1層以上の反射防止加工が施されることが一般的です。このコーティングは、できれば内側に施すのが理想です。なぜなら、サファイアクリスタル自体は傷がつきにくくても、外側のコーティングが傷ついてしまう可能性があるからです。また、フロントのサファイアクリスタルは、これを通して美しい透明なダイヤルのパノラマを楽しむことができ、ケースバックのサファイアクリスタルは、内部のムーブメントの魅力的な眺めを提供します。

サファイアクリスタルは、その優れた耐久性と傷のつきにくさから、タグ・ホイヤーをはじめとする多くの高級時計メーカーが好んで使用するようになっています。20世紀初頭からの合成サファイア製造の進歩により、サファイアクリスタルは幅広い種類の時計に利用できるようになり、魅力的な美しさと機能的なしなやかさが両立できるようになりました。時計製造技術が進化を続ける中、サファイアクリスタルの優れた耐久性は、時計愛好家にとって欠かせない要素であるエレガンスと実用性が融合した、時計業界における高品質の象徴であり続けることを約束しています。