スポーツ インディ500でのピットストップの極意
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モータースポーツの世界では、スピードが全て。しかし、レースの勝敗が、ピットレーンの熱気の中で、時間とメカニックたちに翻弄されながら、マシンが全く動かない状態にあるときに決まってしまうこともある点を忘れてはなりません。これはつまり、ピットストップが、給油やタイヤ交換、壊れたウィングを直すためだけにあるのではなく、レースの結果を劇的に左右することも珍しくない、ということを物語っています。特にインディ500ではその傾向が顕著です。この「モーターレーシングきってのスペクタクル」では、全長2.5マイル (約4km) のオーバルコースで、ドライバーたちが自らのマシンの限界に挑戦します。
それにしても、ピットレーンに入ってから出るまでのわずかな時間の中で何が起こっているのでしょうか? インディ500でのピットストップはどのように行われるのでしょうか? そこで今回は、インディ500の公式タイムキーパーを務める私たちが、ピットストップの極意やチームの成功に欠かせない要素を探ってみました。
練習、練習、ひたすら練習
プレシーズンの間、インディ500の各チームのピットクルーは、特別に指定されたマシンでのピットストップの練習に多大な時間を費やします。プラクティスセッションは全て、ピットストップの際のチームメンバーそれぞれの動きを入念に振り付ける機会となります。ピットストップでチームがシームレスに動いているように見えるのは、こうしたトレーニングの賜物です。ピットストップを完璧なものとするために忙しい思いをしていないときにクルーが励んでいるのがフィトネス。専任のトレーナーやピットストップコーチによるパフォーマンスプログラムに参加しています。クルーたちはまた、練習風景をビデオに撮影して確認し、データやタイムを分析することで、どこを改善すればいいかを検討します。インディ500のピットストップはほんの数秒のことですが、レースの激しさに耐えられるよう、クルーたちは、精神的にも肉体的にも準備を整え、大事な瞬間に完璧を期することができるようにしておく必要があります。
ピットストップを生かす
ピットストップは、ドライバーとクルーの間で繰り広げられる繊細なダンス。ピットストップがうまくいけば、他のチームより優位に立つチャンスがもたらされます。例えば、マシンの軽量化のために、タイヤのコンパウンドを変えたり、燃料を少なくしたタンクを選んだりすることもあります。また、ピットストップの間にマシンのセットアップを調整することで、パフォーマンスを向上させたり、ハンドリングの問題を解決させたりすることもできます。チームは、可能な限りのアドバンテージを得るために、データを精査し、ドライバーとコミュニケーションを取りながら、情報に基づいた判断を下します。ピットストップはまた、ドライバーの精神的な支えにもなります。迅速で効率的なピットストップは、ドライバーに自信と勢いを与え、それがサーキットでのパフォーマンス向上にもつながります。
インディ500のピットストップを解剖
ピットクルー:クルーは専門のチームメンバーで構成され、それぞれが特定の役割と責任を担っています。一般的には、給油係、タイヤ交換係、ジャッキオペレーター、ウィングアジャスター、チームマネージャーなどがいます。メンバーそれぞれに決められた仕事があり、協調して迅速かつ効率的にマシンを整備します。
ピットボックス:ここは、ピットストップのためにチームがセットアップを行う中枢となる場所です。ピットウォールに設置されたボックスで、燃料や機材を保管し、チームマネージャーとドライバーがコミュニケーションを取り合います。ピットボックスは、クルーが簡単にアクセスできるように設計されており、全てが決まった順序でレイアウトされているため、スムーズで効率的なピットストップが確実に行えるようになっています。
ピットウォール:レース中にクルーが立ち、マシンの進行状況を確認したり、ピットストップの準備をしたりするエリアです。ピットウォールではまた、チームマネージャーが立ち、ドライバーとコミュニケーションを取りながら、ピットストップを監督します。ピットウォールは戦略的に配置され、コースとマシンを最もクリアに見渡せるようになっています。
インディ500でのピットストップの極意
ピットレーンへのアプローチ:ドライバーがピットレーンに入ると、ピットレーンスピードまで減速し、チームのピットボックスに向かってステアリングを切ります。その後、チームが定位置で、マシンの整備を行います。
給油とタイヤ交換:給油係が給油ノズルをマシンに装着して給油を開始する間に、タイヤ交換係はタイヤを交換します。いずれのチームも5秒以内に給油とタイヤ交換を完了することを目指しています。
調整と修理:給油とタイヤ交換が済むと、チームは必要な調整や修理に取り掛かります。例えば、マシンのウィングの角度を変えたり、コース上で起きたダメージを直したりします。
レースに復帰:マシンの整備が完了すると、ドライバーはクラッチを切り、ピットボックスからピットレーンに出て加速します。チームは定位置のまま、ドライバーに合図を送り、レースへの復帰に向けゴーサインを出します。
ピットストップのタイミング:ピットストップのタイミングは非常に重要です。インディ500の理想的なピットストップ時間は約7秒です。できるだけ迅速にピットストップ作業を完了させることを目指す一方で、チームは競争上の優位性を得るために戦略的にピットストップのタイミングを計ることもあります。例えば、コースポジションを獲得するために、ライバルたちより早くピットインすることもある、といった具合です。
タグ・ホイヤーは「インディ500」の公式タイムキーパーです。